僕らの関係 残るヌクモリ。-28
「だってだって……」
嗚咽にしゃくりあげるものが混ざり、たまらず泣き出す彼女。幸太は濡れた髪を手で梳きながら少し男っぽい声を作ろうと喉を抑える。
「ユッキー、俺、今は会えないけど、でも、いつか必ず迎えに行くよ。だから、待っていて……」
どうしてそんなことを考えたのか不思議だが、幸太はほんの数分程度演じた役回りから、自分なりにシミュレートしてみる。
「アッキー……」
「ユッキー、愛してるよ」
少しやりすぎかもしれないと思いつつ、起き上がろうとする彼女を胸に抱き寄せる。
タイルは冷たく、背中から容赦なく体温を奪う。けれど前面から美雪の体温を分け与えてもらえる。だから、もう少しだけ、がんばれる気がした。
「……ふふ。わかってるよ、アッキー。私、アッキーのこと好きだから、我慢する。
だから絶対に迎えに来てよ」
胸元にちくりとした痛みを感じる。美雪が乳首にツメを立てているが、それは若干の猶予。幸太はもう少し彼女の自由にさせることにした。
***―――***
風呂上り、幸太はすっかりのぼせ上がった美雪を恵とともにお風呂から連れ出し、下着を着せたあと両親の布団に寝かせた。
しばらくは幸太を見てうわ言のように「アッキー」と繰り返していたが、布団を被せると、すぐに安らかな寝息を立てた。
恵はソファに座ると、買ってきた色とりどりの缶を取り出し、コップの縁に塩を塗る。そのあとグレープフルーツの絵の描いてあるものを一つ空け、コップに注ぐ。
「何してるの? 恵」
「子供は知らなくていい」
「なんだよ、恵だって子供じゃないか」
「んー。まあそうだな。てか、コウも子供じゃないな」
恵はいやらしく笑うと別の缶を空け、コップに注ぐ。それは見た目オレンジジュースそっくりだが、漂う香りから察するに普段口にするものよりも深みがある。
「乾杯」
陶器のコップがキチンと音を立てる。目の前の黄褐色の液体への興味が沸いた幸太は倫理感をちょっぴり忘れ、それを煽る。
喉を通る液体は驚くほど冷たく、深みのある甘味を持ち、同時に鼻を抜ける熱さがあった。
「んぐんぐ……はぁ……、これジュースみたいだね」
「まあそんなところだ。でもあんまり調子に乗るなよ?」
「うん……」
徐々に体が熱くなり、若干の浮遊感を覚える。見た目オレンジジュースでも、中身はしっかりアルコールなのだとわかる。