僕らの関係 残るヌクモリ。-18
「でも、私は無理かもなあ……」
「そんなことないですよ」
「じゃあ、私にも教えてくれる?」
「ええ、いいで……その手には乗りませんよ。阿川先輩?」
「ちぇ、ガード堅いのー」
「ほらほら、いちゃついてないの。コウ、きゅうりスライスしたけど、他に付け合せ必要?」
恵はスライサーで卸されたきゅうりを塩で揉み、アクを抜く。
「んー、いんじゃない?」
幸太は塩ブタを数枚スライスしたあと、お皿に盛り付け、きゅうりを飾る。それをゲストの待つ居間に運びこむ。
「お待たせしました」
「くるしゅうない。ちこうよれ」
美雪はきゅうりとスライスされた肉をフォークで摘むと美味しそうに頬張る。
このときの彼女の表情は、自分を可愛いと連呼するときよりずっと魅力的に思える。
「どしたの? コウ」
「ん、なんでも無い。それより何か飲み物ないとね。ショッパイし、のど渇いちゃうよ」
すると、立ち上がろうとする幸太の前に湯飲みが置かれる。
「まあまあ、お若いの、これでもどうぞ」
恵が手にするのは日和見のビン。どろどろと濁ったものが注がれると、甘ったるいニオイが鼻につく。
「ちょっとケイ、それってお酒じゃ……」
「堅いこと言わないの。それとも幸太君、お酒ダメなの?」
「ダメって訳じゃないけど、でも、まずいでしょ」
幸太もお酒を飲むことがある。ただしそれは料理に使うときだけで、お酒を飲むことを目的にしてではなく、あくまでも料理の工程の一つ。
「お子様ね。幸太ちゃん」
「僕は子供じゃないよ」
「そうなの? お酒も知らないで?」
「お酒くらい飲めますよ!」
目の前に添えられた湯飲みを掴むと、幸太は呷るように飲み始める。
苦味の中にフルーツのような香りが漂い、舌に甘みを感じる。
どろりとした味わいは不快な喉越しだが、わりと嫌いじゃない。
「おー、良い飲みっぷりですな。ささ、もう一杯どぞー」
恵はおどけた様子で二杯目を注ぐ。