僕らの関係 残るヌクモリ。-15
「僕はもう、いいですよ」
「だめー、幸太君にあーんしたいの」
ダダをこねる彼女からは先ほどまでの覇気が見られない。
「じゃあ、遠慮なく……、あーん」
もち米の比率も、味付けも悪くない。しいて言うなら既製品のクリを使わず、天然のものを甘く煮たほうが香りも邪魔をしないはず。今後の課題を交えながら、ゆっくりと飲み込む……が、
「あーん、幸太君に私のクリちゃん食べられちゃった!」
両頬に手を当てて直球でシモネタを放つ美雪に、幸太は咽てしまう。
「阿川先輩、何を言うんですか!」
「だってー、ほんとのことでしょ?」
「なんだよ、コウ。先輩のクリ食べたのか?」
意味を知っている部員達はクスクスと笑ったり、半眼で睨んだりと、リアクションもさまざま。
「変なこといわないで下さいよ」
「んー……、ちょっち残念かも」
美雪はフォークでから揚げを突き、あんぐりと開いた口に頬張ると、「美味しい」
と舌鼓を打つ。
「何がです?」
もしかしたら何か味付けに物足りなさがあったのかもと、素直に聞き返してしまう。
「ん? それはねー」
にっこりと微笑む美雪はまじまじと自分を見つめる幸太の鼻先を人差し指で小突くと、一言告げる。
「内緒!」
幸太はまたからかわれたのだと、肩を落とした。
***―――***
お昼を終えたあとも相模原女子バスケ部は試合を観戦しており、この後も学校に戻ってからミーティングと軽い練習を行う予定とのこと。
幸太は先に帰ると告げたが、美雪はマネージャーになってとしつこく食い下がり、しまいには顧問も呆れていた。
次の試合のときも差し入れを持ってくると約束することで開放されたが、リクエストも色々出た。
自分の作った料理を美味しいといってくれるのは単純に嬉しかったし、張り合いもある。幸太は帰りの足で本屋に向かうと、普段は手にすることのない、宴会料理の本を覗いてみた。
***―――***
盛り付け、下ごしらえ、隠し味……、新たな知識を得ると試したくなるのが人情であり、幸太もそれに漏れない。試しに肉料理でもと、早速料理酒とブタ肉を買い、他にもセロリやにんじんなど、コクのある野菜を選ぶ。
気がつくと外は既に日も落ち、真っ暗だった。
夢中になるとこれだと思いながらも、意気揚々と家路につく。
すると、家の前に誰かがいた。
由香だろうか? それなら料理の味見をしてもらうのもいい。しかし人影は二つ。
一人は背が高く、もう一人もそれなりに長身だ。
「お、コウ! 何処ほっつき歩いてたんだよ? ケータイ連絡しても出ないし!」
恵の声にポケットに突っ込んでいただけの携帯を引っ張り出すと、着信三通とあり、いずれも「恵」とある。
「ゴメン、お肉選んでたら、つい夢中になって気付かなかったよ。それよりどうしたの?」
「いやさ、その……悪いんだけどさ……」
「幸太くーん!」
「わ、阿川先輩!」
またも美雪の声に、幸太も今度は驚くことが出来なかった。