僕らの関係 残るヌクモリ。-12
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背後でドアが閉まる音がしたとき、幸太は由香の好きだったレモンピールの浮かぶ紅茶を淹れようとしていた。
「由香ちゃん?」
玄関に向かうも由香の靴が無い。追いかけようにもヤカンは火にかけっぱなし。仕方なく一人分を淹れるも、飲む気になれない。
時計はもうすぐ七時になる頃。
今日は両親が遅い。簡単なおかずをつくり、朝の残りの味噌汁を温めなおす。
――せっかくだから由香ちゃんも一緒に夕飯を食べていけば良かったのに。
突然姿を消した彼女を不審がりながらも、幸太は寂しい食事を始めた。
最近はレパートリーも増えた。由香に腕を振るうのも悪くないし、乱暴に求めたことをきちんと謝りたかった。射精したあともすぐに身体を離してしまったが、本当はもっと余韻を楽しみたかったのだし。
セックスと比べればずっと快感も薄いが、それでも大切な人と素敵な時間が共有できたのだ。それだけでも良しとすべきだが、既に女を知っている幸太の欲求は、心理面での充足だけで満足出来そうに無い。
――またしないと……。
股間には食事のときも自重しない息子が、早く遊んでよとせがんでいた。
冷めた紅茶と一緒に部屋に戻る。
爽やかな香りは気持ちが安らぐが、煽ってはくれない。
肌を重ねた日を思い出しても、触感や温度、それに臭いに触れることは無い。
幸太はベッドに横になると、晴天続きにも関わらず干すことをしなかった布団を頭から被る。
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学園祭が終わった頃、恵からメールが来た。
『十一月の新人戦にお弁当を持ってきてほしい。パーティサイズ。予算は五千円から六千円まで』
相変わらず無茶を言うと思いつつも、予算には心惹かれるものがある。
使う調味料などを買い込むことが出来れば、普段の予算を結果的に安くすることができ、母に必要経費として要求できる。
幸太は財布と相談すると、二つ返事で了解した。
業務用スーパーでトリのモモ肉の塊を買い、他にパセリとレモンなどの香味野菜。
サニーレタスにプチトマト、ジャガイモが安かったのでポテトサラダも良いかもしれない。他に卵を買えばゴマカシも利くだろう。出し巻き卵は彼の得意料理で、何よりボリュームがある。
季節柄、アップルパイならきっと喜んでくれるかもしれないと、酸味の強そうなリンゴとパイ生地をカゴに入れた。
当日は朝早く起きて重箱サイズのお弁当箱三つ分で、包みを別に二つを用意する。
一段目はから揚げとパスタ。にんにくの代わりに生姜を利かせた和風ペペロンチーノに、甘辛ソースを絡ませたトリモモ肉のから揚げをのせる。ソースが合わさってしまうも、それはご愛嬌。
二段目はポテトサラダと水菜のシーザーサラダ。から揚げを作るついでにチーズを軽く揚げたものをまぶし、ゴマドレッシングにいりゴマを加え、風味を引き立たせる。
三段目はクリごはんと山菜ごはん。これは炊き込みご飯の元を使った手抜きで、ボリュームを増やす為。
その他に卵一パック使った出し巻き卵に、メインであるアップルパイ。シナモンが用意できなかった代わりに、カモミールの葉を刻んで混ぜてみた。
「うん、これで大丈夫だよね?」
幸太は風呂敷につつむと、張り切って家を出た。