僕らの関係 残るヌクモリ。-10
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――勝手に帰ったら変に思われるよね。だけど、幸太ちゃん、なにかおかしい。
家に帰ってくるなり由香は自室にこもり、今年の春、高校入学を機に買ってもらった携帯電話を眺めながら、一人ため息をついた。
ピンクの薄型は流行より二世代古いが、シャープなボディが嫌いじゃない。
アドレスには三人の幼馴染と両親、祖父母の家と従兄弟程度で、たまにかかってくるといえば恵からの「遊びに行こウゼーメール」くらい。
由香は里奈の携帯番号を選択するが、通話ボタンがなかなか押せない。
彼のベッドにあった髪の毛は明らかに里奈ではない。彼女は校則違反にならない程度に染めているし、長さも違う。でも、だからこそ彼女を選ぶのかもしれない。
三度めのため息をついたあと、由香は決心して通話を選ぶ。
トゥルルというアナログな音は安心させてくれる。
このまま里奈が出ないならそれもいい。むしろその方がいい。事実を知るには、まだ心の準備が出来ていない。
もし予想が正しければ、幸太は部屋に自分じゃない誰かを招いて、そして肌を……。
『ハイホイ、里奈だよー』
「あ、里奈? 私、由香」
『どしたのー? ユカリンから電話してくれるなんて珍しいジャン! さては恋の悩みかな〜』
胸がドクリと痛む。勘の鋭い里奈は、たまにひやひやさせるようなことをのたまう。
もしかしたら彼女の振る舞いは全て演技で、自分や他の皆を欺こうとしているように勘ぐれることもある……が、今はそれすら頼もしい。
自分の直感と彼女の直感を摺り寄せることに意味は無いが、それでもすがりたい。
由香は焦る自分を滑稽に思いつつも、それを悟られないよう、一呼吸置いてから話し始める。
「ねえ、最近さ、なんか変わったことないかな?」
『変わったこと? あったかな〜』
「うん。ほら、体育の授業とか、最近男子の視線が強くなったとかさ」
『あーわかるなー。里奈も最近変な視線感じるもん。特に練習中とかね』
チア部はいつもレオタードに着替えるわけではないらしいが、それでもスパッツからはみ出る彼女のおみ足に群がる男子を想像するのはたやすい。
「それでさ、最近幸太ちゃんも変なのよね? やっぱりこの前のことが原因かしら?」
『う〜ん、むしろそれ以外に無くなーい? コータ、かなり恥ずかしかったみたいだし〜』
「そうよね」
『でもさ、ユカリンが慰めてあげたんでしょ』
「う、うん」
『どうやって慰めたの?』
「それは……その」
『男の子というか、コータ結構デリケートだし、ユカリンしか出来ないことだと思うんだよね〜』
放課後に精を処理することは、確かに自分しかできない。