未完成恋愛シンドローム - Crazy Children --7
「つれないなー、イヴは」
「取り敢えずそこどけ」
段々相手をするのも面倒になってきた。
「便所?」
「ちゃう」
ため息をつきながら、さっき拾ったケータイをポケットから取り出す。
「これ」
「?」
何故か不思議そうな顔をするコタロー。
「なに」
「いや。イヴのケータイの色って、青やっけ?」
そこか。
「オレのは黒」
「形は一緒やんな、確か」
「・・・」
なんで覚えてんねん。
「これカイトのや」
「ああ」
昔、母さんがどこにいても連絡が取れるようにとオレ達にケータイを買ってくれた時、2人して同じ形・同じ色のを選んだ。
その時、さすがにいくら双子でも、見た目全部同じなケータイじゃ不便になるからと、オレが折れて違う色のを買った。
だからまぁ、形は同じになる訳だけど―
「ん?」
オレの視線に気付いたのか、コタローが顔を上げる
「なんでもない」
まさか、ド鈍そうなこいつが、他人のケータイの形や色まで覚えているなんて思いもしなかった。
「さっき、あいつが屋上で落として、そのまんま気付かんと行ってもーたから」
「ふーん」
なんか腹立つな。
「でもイヴ」
「あ?」
「次、オレら部屋移動な」
「・・・」
忘れてた。
「音楽室と美術室、方向全く逆やけどどーする?」
「・・いい、後で渡す」
しょうがなく、少し気分は悪いものの、席に戻ろうとする。
「それか」
「ん?」
コタローの声に反応して、後ろを振り向く。
「教科書とかは持ってったるから、机ん中にでも入れといたら?」
「・・・・・」
・・・・・。
「全く・・」
考えてみれば至極当然の発想なのに、なんで思い付かなかったんだか・・・。
自分自身に腹を立てつつも、カイトの教室に歩いていく。
「つか、開いてんのか・・?」
今更ながらにそう思いつつも、取り敢えずドアに手をかける。
―カラカラ・・
開いた。
「しっつれーしまーす」
誰に言うともなく、教室の中に入る。
「・・・・」
ひんやりとした空気と共に、微かに汗の匂いが残っている。
―ドクン
何故か、鼓動が早くなる。
「・・・・・」
―なにに反応してんねん・・・
―まさか、2時間以上前の、しかも男の汗の匂いなんかに・・・?
背筋が冷たくなる。
「・・はぁ」
少しだけ息を吸った後、大きく息を吐く。
それで、少しだけ落ち着いた。
「さて・・・」
窓際にある、カイトの机に向かって歩いて行く。