未完成恋愛シンドローム - Crazy Children --11
「考えといてくれよ」
「あ、はい」
道場のドアを開けながら言う部長に、返事を返す。
―よくよく考えてみれば、別に悪いことじゃないのかも知れない。
普段、組み手や出稽古では試合をすることのない相手とも出来る訳だし。
そう思いながら道場に脚を入れた瞬間―
「っ!」
中に居た時には気付かなかった、いくつも重なった、汗の匂いが―
「?どした?」
「あ・・いえ・・・」
心臓がバクバクいっている。
今日、感じたどれよりも酷い、熱が、身体中を巡っている。
「イヴ?」
様子がおかしいことに気付いたのか、部長が近付いて来ていた。
「顔赤いけど」
「あ・・なんか、ちょっと熱っぽくて・・・」
苦笑いをしながら、そう答える。
「マジで?」
そう言って、オレの額に掌を当てる。
「っ・・」
身体がビクッと震えた。
全身の皮膚が、剥き出しの神経を撫でられるみたいに敏感になってる。
「ほんまやな。ちょっと熱い」
部長が手を離す。
「・・はい」
少し俯きながら、返事をする。
何故か、部長の股が視界に入り、慌てて目を瞑る。
「大丈夫か?」
そんなオレの様子に異常を感じ取ったのか、部長が顔を覗き込んでくる。
―頼むから見ないで
そう思いつつも、言葉には出せない。
「保健室行ってくるか?」
確かに、保健室ならベッドもある。
が、何よりも今は―
「出来たら、家に・・」
―家に帰れば、鎮められる・・。
「判った。この頃様子おかしかったしな」
「・・はい」
「今日はもうええから、早よ帰って寝えや」
心配してくれてる部長の言葉に後ろめたさを感じながらも、頷くことしか出来なかった。
・・・・・。
「・・じゃあ、先に上がります」
「おう」
「気い付けて帰れよ」
「ちゃんと布団被って寝ろよ」
「はい、お疲れさまでした」
手早く着替え、思い思いの言葉をかけてくる他の部員たちに返事をしながら道場を出る。
「はぁ・・・」
通路を歩きながら、溜め息をつく。
―早く帰って、どうにかしなきゃ・・。
ズボンの下でガチガチに勃起しているちん○んに意識をやらないようにしながら、げた箱まで辿り着く。
「ん・・」
軽くよろめきながらも靴を履き替え、玄関口から外に出る。
「・・・あれ?」
黒い、袴姿の一団が、運動場を走っていた。
「剣道部・・?」
―コタローも走ってんのか・・?
そう思った瞬間、
―ドクン
心臓の音が聞こえた。
・・・・・。