未完成恋愛シンドローム - Crazy Children --10
「っせいっ」
―ダンッ
柔道場の中。
ストレッチをこなし、受け身の練習もした後、打ち込み稽古の最中。
身体も温まって来て、どんどん相手を投げて行く。
「イヴー」
「はい?」
礼をした後、部長が声をかけてくる。
「ちょっと話あんねんけど」
そう言って、外を指差す。
「いいっスよ」
応えて外に出る。
「海藤がケガしたん知ってるやろ」
外に出ると、部長がそう切り出してきた。
海藤さんとは、うちの部の副部長のことだ。
タッパもあって、見るからに「柔道やってます」的な感じな人なんだけど・・。
「ケガ、ですか?」
初耳だった。
「なんや、知らんかったん?」
意外そうに部長が言う。
まぁここ数日、部活出なかったり、出ても考えことでボーっとしながらってパターンだったし・・。
「はい。ヒドいんですか?」
「アキレス腱」
―うわ。
骨折でもしたのかと思ったら、よりにもよってアキレス腱とか・・。
「あ」
「ん?」
ふと、思った。
「今度の大会、どうすんスか?」
「それやねんけどなー・・」
他の部活は、秋の学園祭前後に3年生が引退することが多いものの、柔道部と剣道部は2学期の期末の後に大会があるから、引退がそこまで伸びるのが慣例になっている。
海藤さんもその例に習って、副将で大会にでる予定だったんだけど―
「イヴ、出てくれへん?」
・・・。
「はい?」
予想してなかった発言に、一瞬思考が麻痺する。
「オレ、2年ですよ?」
「2年でも、県の中やったら5本の指には入るやろ」
「いや、別にオレそんな強く無い―」
むしろ、カイトの方が強いし・・。
「もう3年引退した後の部長、イヴに決めてるし」
・・・・。
―そんなこと、本人の了承得ないで勝手に決められても・・。
そもそも、後の人事とかオレに言ってもいいのか?
あまりにもツッコミ所が多すぎる発言に何処から突っ込もうかと悩んでいると、部長はその沈黙をどう勘違いしたのか、満面の笑みを浮かべて肩を叩き、
「大丈夫。いきなり大将はマズいやろーから、最初は副将や」
「・・・・」
と言うか、既に確定してる内容を事後報告されてるだけな気がしてきた・・・。
「考えさして貰ってもいいっスか?」
なんとなく、この場で答えるのも嫌だったから、曖昧に返事をしておく。
「判った。まぁ、急には決めれんわな」
決めるもなにも半分決まってるやん、と言いかけ、口をつぐみ、苦笑を返す。
「段蔵さんには言ってあるから」
・・・・。
一瞬、自分の表情が変わったのが判った。
「師匠は」
「ん?」
「師匠は、なんて言ってました?」
あの人まで、本人の意向を無視してオレを推したんだろうか?
「イヴの判断に任せろ、って」
・・・。
どこか、気が楽になった気がした。
絶対に無理強いはしない人。
これからもそれは変わらないと思ったから。
・・・・・。