維新-2
「あの…あの刀はどうするんですか?」
島田の目線の先にはさっき地面に突き刺したままの刀があった。
「あぁ、あのままでいいだろ」
「でもあの刀ってかなり高価なものなんじゃ…」
「いいんだ。島田、お前も先の戦で分かっているだろ。これからの時代は刀がものをいう時代じゃないことくらいな。
もう侍の時代は終わったんだ。
お前は先に行ってろ。俺も後から行くから」
「分かりました…副長」
島田は少し間をおいてそれだけ言うと戦場へと駆け出して行った。
「副長、か」
副長…すでに捨てた言葉であったがずっとその男の心に響いていた。
男は空を見上げて一人呟く。
「俺も追々そっちに行くつもりだからまたそれまでな…じゃあな…」
男はそう言うと戦場へ向かおうとした、が…
「動くな!!」
急に誰かに叫ばれたと思うとあっという間に10人程度の兵士に囲まれた。
服装から見るに薩長の奴等だ。
「何用か?」
男が低く短く言う。
「貴様何者だ?」
「…名乗りたくねぇな」
男はしばし考えて答えた。
「名乗らなければ…斬る!」
兵士の一人が言うやいなや男に斬りかかった。
ザシュッと刀が肉を切り裂く嫌な音と共に人が倒れる。
倒れたのは兵士のほうだ。
「…やっぱりこれはまだ捨てられねぇな」
男はついさっきまで地面に刺さっていたあの刀を手に持ち言う。
その刀にはべっとりと血が付いていた。
「貴様ぁ!もう容赦はせんぞ!!」
兵士が怒鳴ると3人が一斉に男へ斬りかかった。
それを男は見事な刀捌きでことごとく切り捨てていく。
「ッ!!」
残った兵士たちは男のあまりの強さに後退った。
「ふぅー、暑いなー」
男は人を斬った後とは思えないほど間延びした言い方をして、上着を脱いだ。
「!?
あぁッ……き、貴様は!!」
その姿を見て兵士たちは酷く狼狽する。
男が上着の下に着ていた袖口に山形の模様を染め抜いた独特の羽織が風に靡いた。
「新選組副長、土方歳三」
男、もとい土方は静かに言った。
まだ死んでいない生きている目で確かにそう言った。