恋愛の神様・後編-8
「…恋愛の、神様?」
恐る恐る尋ねると、
―そーゆう事―
神様らしからぬ軽い口調で答えられた。
こんなとんでもない現実を作るような神様だ、いちいち口調なんかに突っ込んでいたらキリがない。
「ねぇ、何でみんな動かないの!?祐希どうなって―――きゃっ!?」
突然足下がぐらついたかと思うと、景色が歪み始めた。
何?
何?
違う、歪んでるんじゃない。動いてるんだ。
あたし以外の全てのモノ、一時停止だった景色が今度はそのまま巻き戻されるように遠ざかって行く。
祐希がどんどん離れて行く。
「祐希!!」
声も手も届かない。
やだやだ、祐希が見えなくなる。
「祐希!祐希!祐希――ひゃぁっ!?」
見えない大きな手につまみ上げられた感覚がして、一瞬浮上がった体は空に向かってポイッと投げ飛ばされた。
まるで、世界の外にでも放り出されるように。
空から見る町はいつもの見慣れたそれとは違って新鮮で、だけどやっぱりいつもの目線で見たいと思った。
いつもと同じ景色。
あたしにとってのそれは、隣で笑う祐希。
会いたいよ、祐希―――
遠くでチャイムが鳴ってる。
薄れゆく意識の中で、あの声を聞いた。
―ありがとう、楽しめた―
「…うああああっ」
絶叫と共に目が覚めた。
投げ飛ばされた後は、当然地面に叩き付けられるとばかり思っていたが…
「ここは…」
学校の保健室のベッドの上だった。
混乱してる頭を整頓させるべく、起き上がって辺りを見回した。
時刻は下校時間を過ぎたとこ。オレンジ色に染められた校庭からは運動部の活気ある声が聞こえる。
日めくりカレンダーが示す日にちは、五日前。つまり、
「あの日だ…」
ゴクン、と、生唾を飲んだ。
今の状況は、まるでデジャヴ。あたしは前に一度同じ体験をしている。
鼓動が激しくなる。
息が苦しい。