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恋愛の神様
【ファンタジー 恋愛小説】

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恋愛の神様・後編-6

「はぁ…」

携帯を握り締めたまま頭を垂れると、さっきの見慣れない物が視界の隅に入ってきた。
腕を伸ばしてそれを手に取る。

「貼るホッカイロ…?」

学校の近くのコンビニのお代済みシールが貼られているけど、買った覚えがない。
あたしが買ったんじゃないんだから、誰かが入れて…


『カイロでも貼っとけよ』


また、祐希の声が聞こえた。

これ入れたの、祐希だ。

あの日、お腹が冷えるって言ってたあたしの為にわざわざ買いに行ってくれたんだ。
だからお昼休み教室にいなかった。あたしが保健室に行ってる間にカバンに入れた、直接渡すのが照れ臭くて―――
この状況になってから初めて泣いた。

バカだ、あたし。
祐希はいつだって優しかった。
いきなり階段から落ちるようなあたしの為に、いつも手すり側を歩かせてくれた祐希。
道を歩く時だって車道側は自分が歩く。

そんな優しさも、八代がそうしてくれなくて初めて気付いた。
なのにあたしは文句ばかりで、好きなんて口だけで祐希に優しくした事なんてない。それでも祐希は笑ってくれた。
甘い言葉なんか必要ない。
大袈裟な優しさもいらない。
祐希は祐希のままでいて。
変わらなきゃいけないのはあたし。


涙を拭って立ち上がると、そのまま家を飛び出した。
ボサボサ頭に汚れたサンダル。泣いていた目は充血してるだろう。でもそんな事はどうでも良かった。
今は一秒でも早く祐希に会いたい。
早く、早く――

外はあの日のようなオレンジ色。眩しくて、光の中を走っているような錯覚を感じた。
心の中で何度も祐希の名前を呼んだ。
何度も謝った。
祐希を元に戻すのがあたしの使命だと思ってた。そうしなきゃいけない、今の世界が間違ってるんだって。
でもそれはあたしの希望。
この世界の祐希はそれを望んでいない。
だったら、あたしがしなきゃいけない事は―――

「…あ…」

正面から祐希が歩いて来るのが見えた。
夕焼けを背にする姿はとても綺麗。でも…

「実果、どうしたの?」

目が赤い。泣いていたのが分かる。それでも笑いかけてくれるんだね。
あたし―――

祐希の手首を掴んで無理矢理走り出した。

「実果!?」
「行くよ、祐希!」
「何、どこへ――」
「八代んとこ!!」

言った途端、祐希の足が止まった。


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