恋愛の神様・後編-10
「実果ー、俺パン買いに行って…」
お昼休み、購買へ出かけようとしていた祐希の前にお弁当を差し出した。
「…何?」
「作ったの」
「誰が」
「あたしが」
「何で」
「祐希に食べて欲しくて」
「は!?」
眉間にシワを寄せて必要以上にデカい声を出す。
「そんなに驚く事ないでしょ」
「驚くだろ。は〜、実果がねぇ、俺にねぇ…」
危険物でも触るようにあたしからお弁当を受け取ると、爆弾処理でもするようにそーっと蓋を開けた。
普段親の手伝いもしない人間が作ったお弁当はお世辞にも美味しそうとは言えない代物。なのに、
「ありがとう」
最上級の笑顔をくれた。
女の子の祐希もきっと同じ気持ちだっただろうな。嬉しくて恥ずかしくてくすぐったくて、外へ飛び出したい気分だ。
あたしはちょっとずつ変わり出した、筈。曖昧なのは、こーゆう事は自分で言うモノじゃないと思うから。
とりあえず、文句を言うのをやめた。
祐希は優しい。
そう思うと、今まで見えなかった良い部分まで見えてくるから不思議。
自分が大切にされてると分かれば、それだけで幸せだ。
これからはあたしも祐希を大切にしよう。祐希の為に何かしてあげよう。
女の子の祐希がそうしていたように。
目が覚めてから三日たった。
帰り道、今日も二人並んで歩く。
見慣れたいつもの風景。
いつもの町の匂い。
でも…
最近、ふとした瞬間に頭の中にもやがかかる。
あたしは何かを忘れてる。とても大事な事な気がするけどそれが何なのか思い出せないし、思い出そうとすればするほどもやは濃くなる。
「実果?」
「へ!?」
「ぼーっとしてどうした」
あたしの顔を覗き込む祐希の顔は、夢の中で見た女の子の祐希とよく似てる。
あたしを気遣ってくれる、優しい目。
繋いでいた手にギュッと力を込めた。
「何でもないよ、ね、それより今からどこ行くの?」
「んー?いいとこ」
「何」
「美味いもん食わしてやるよ」
「…え」
「弁当のお礼」
まただ。
濃い、深いもやが、あたしの記憶に目隠しする。
あたしはこのシーンを見た事がある。あの夢の中、あたしは―――