憂と聖と過去と未来3-2
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学園祭も終わり、ラストスパートをかける初秋、うれしい出来事があった。
夜遅く、そろそろ寝ようかとベッドに座ると、携帯が突然震えだした。
携帯を開くと、ディスプレイには公衆電話の文字。
「…誰?」
恐る恐る受話キーを押して、携帯を耳にあてる。
『……はい』
『………』
相手からの反応はなく、微かな吐息だけが聞こえる。
まさか変質者?などという考えが頭をよぎった。
『……誰?』
『……まだ起きてたか』
一瞬で誰だか理解する。
同時に眠気を主張していた頭が一気に覚醒した。
『聖!』
『……お前、声がでかい』
聖だ。やっぱり聖が電話をかけてくれたのだ。
『あ…ごめんね。どうして公衆電話なの?』
『……気にするな。それより、元気か?』
なんだか違和感があった。
『…うん、聖は?』
『…俺も元気だ。ところで、もう専門学校は試験終わってるだろ?どうだったんだ?看護学校、受かったか?』
そうだ。聖と同じ大学を受けることは家族と担任しか知らない。
クラスメイトには言わないよう、担任には頼んでおいたし。
『あ…えっと…』
『まさか、落ちたのか?』
『…う』
どうしよう。
やっぱり言わないほうがいいのか…
正直、言いたい。でも、宣言して落ちたときが激しく切ない。でも言わないと専門学校落ちたことになるし、受かったことにするのも嫌だし。
なんだってこんなときまで自尊心を捨てられないのか自分でも不思議でしょうがなかった。
『…憂、悪かった』
『違うの!』
『…ん』
『あたし、あたしね!聖と一緒の大学行く!だから今勉強してるの!』
言っちゃった…
『……憂』
『……うん』
『…声が大きすぎて聞こえない』
なんてこった。
でも今ので自信がついた。
『あたし、聖と一緒の大学に行く』
『はぁ!?』
珍しく即答。
いつもは少し考えてからものを言うのに。
『今、勉強してるの』
『お前…看護士はどうなった』
『どうなったって、諦めた』
『はぁ!?』
あの聖が動揺している。
不謹慎だが、ちょっと新鮮で面白い。
『大丈夫だから、あたしのことは気にしないで』
『気にしないでって…お前』
『あたしが勝手にやってることだから』
『……』
『ごめんね。聖』
『……気にしてねーけど』
『わざわざ合否訊いてくれてありがとう』
『…おう』
『じゃあ、お金もかかってるだろうし、切るね』
切りたくなかったけど…なんだか気まずくて話が続かない。
いっぱい訊きたいことあるのに。
『あっ…待て』
『え?』
『………頑張れよな。勉強』
照れ隠しのような、よくわからない声質。
そしてその言葉。
『……うんっ!』
あたしは心から受け取った。
受かるしかない。
絶対にやってやる。
聖に応援されて、そんな気持ちでいっぱいになった。