ある卒業式にまつわる短編集-4
shot4.
第二ボタンって、なんで第二なんだろう。他のボタンとなにかちがうのかな。
どうでもいいことを考えて気を落ち着かせる。もう、心臓は飛び出そうなくらいバクバク鳴っていた。
胸に抱いたラブレターをもう一度見る。
やっぱりラブレターなんて、古臭いかな。でも、面と向かって言う勇気なんてない。手紙を渡すだけなのに、いまだってこんなにドキドキしてるんだから。
時計を見ると、三時半だった。もうホームルームも終わっている時間だ。
会長の下駄箱にいれておいた手紙には、校舎裏に来てほしいことだけ書いておいた。ラブレターを直接いれておくのはいやだった。もしかしたら、気付いてもらえないかもしれない。
あ、でも、手紙で呼び出して手紙を渡すって変かな。
ていうか、会長、友達とかつれてきたらどうしよう。一人でって書いておくべきだったかな。
ていうかまず、来てくれるかな……。
雀宮高校生徒会の会長だった高橋先輩。わたしは書記で、いつも会長のとなりに座っていた。
初めてあったときから、一目惚れだった。だって、かっこよかったんだ。
真面目そうな顔。身長は、わたしより頭一つ分くらい高くて、歌とかうまそうなハスキーな声。サッカー部に入ってて、写真部のわたしとはあまり交流はなかったけど、いつだったか部活動の写真を撮ることになったとき、きれいなシュートを決める会長を見た。わたしはシャッターを押すのも忘れて、会長の凛々しい横顔に見とれていたけど、いま思えば写真に残しておくべきだった。しまった、大失敗だ。
さっきホームルームの終わりのチャイムが鳴った。来てくれるなら、そろそろだ。
ああ、もう。怖くて涙がでそう。
足が震えているのがわかった。逃げ出してしまいたくなる。
ダメ、ダメ! 弱気になっちゃダメ!
わたしは目をつむって、写真部の先輩の言葉を思い出した。わたしの相談にいつも乗ってくれた、優しい先輩。
――『伝えたい想いがあるなら、絶対に伝えるべき。片想いなんて、なんの意味もないんだからね』
先輩も、恋をしていた。決して叶わない恋を。それでも、叶わないとわかっていても、想いを伝えたんだ、先輩は。
……わたしも、頑張ろう!
「あの、春川さん?」
「は、はい! か、か、会長!?」
いつの間にきたのか、突然後ろから声をかけられて、わたしは跳び上がりそうなくらい驚いた。
「手紙、見たんだけど……」
「あ、す、すみません! い、忙しいのに!」
「いや、それはいいんだけどさ」
「え、えと、その……」
頭のなかが真っ白だ。昨日徹夜で考えた言葉が、一つも思い出せない。顔が熱い。きっと真っ赤になってるだろう。
会長がいけないんだ、いきなり現れるから。
「その、あの、えと、会長!」
「は、はい」
意を決して顔をあげると、会長も顔が真っ赤になっていた。意外だった。かっこいい会長は、告白されるのくらい慣れっこだと勝手に思っていた。
わたしはそこで、いままでずっと自分が下を向いていたことに気付いた。
「その……」
声が震えている。心臓が口から飛び出しそうだ。……勇気をださなくちゃ。
伝えたい想いがあるなら、絶対に伝えるべきなんだ。片想いなんて、なんの意味もないんだから。
ゆっくり深呼吸をして、震えを止める。顔をあげたまま、下をむかないように。そしてしっかり、覚悟を決める。
「会長、ずっと好きでした。これ、読んでください!」