僕らの関係 学園祭-19
「僕は何をすればいいの?」
「すっごく大切なものなんだけど、コータに受け取ってほしいからさ……」
「大切なもの?」
「うん。女の子の、んーん、誰にでもある大切なもの」
「そんなに大切なら処分しないほうがいいんじゃない?」
「だって、皆とっくに捨ててるっぽいもん。里奈だって子供じゃないし、もういい加減捨てたいんだよね」
大切だけど捨てたいもの。ナゾナゾのような物言いに、幸太は頭を悩ませる。もちろん彼に求められているのはそれの処分であるのだが。
「わかんないよ。いったいなに?」
「コータのニブチンーン。知ってるくせにー」
楽しそうに笑い出す里奈は幸太の頬を両手でつねる。
「い、いたひよ、りっひゃん……」
口を無理に開かれてフガフガと間抜けな声を漏らす幸太。里奈は「タテタテヨコヨコ」とぐりぐりと捻ると、思い切り伸ばしてから離す。
「この前ね……、里奈がホットケーキ焼いた日のことね」
里奈の醸す甘い雰囲気に酔いしれていた幸太だが、背筋に冷たい電流が走り、体が熱を帯びる。
あの日はしっかり由香に処理してもらっていた。教室に吹く風が臭いを洗い流してくれたハズだが、由香のハンカチに滲んだ分や、ズボンに滲むそれはまた別。そういえば里奈は低い鼻で何かを探っていたようだ。
「ユカリンとしてたでしょ……エッチ……」
「してないよ」
「ウソ! だって臭いしたもん。幸太のエッチな臭い、由香からも、幸太からも……」
ハキハキとした口調で捲し立てる里奈の表情は険しく、いつもなら見るものを癒す眉も眉間による皺にあわせてきつくとんがっている。
「りっちゃん、あれはそうじゃなくて……」
「いいんだよ、隠さなくて……。でも、まだ幸太は由香と付き合ってないよね? だったら私だって……幸太のこと、嫌いじゃないから……だから……」
彼女の一人称は高校生にもなって「里奈は〜」のはず。そもそも皆をあだ名で呼んでいたはずなのに、今の彼女は……。
「そう。でも、僕は……」
「失敗クッキー、食べてくれて嬉しかったな。あんなの恵に食べられたら一生笑われるもん。でも、幸太は庇ってくれた。優しすぎるからつい甘えたくなっちゃうの。えへへ、迷惑かな?」
目を細める彼女は視線を下に落とし、鼻でクスリと笑う。
何時になく真面目な表情で彼を見る里奈に、幸太は無言でくびを振る。
もっとも例のクッキーと同じく何かが足りていないのだが、二人はそれに気付いているのだろうか?