僕らの関係 学園祭-18
「りっちゃん、これを見せてくれる為に着替えなかったの? えへへ、なんか照れちゃうな。僕のためにそんなことしてくれるんだもん」
「ぶー、ちがーう、これはあくまでも応援。コータの呪いはまだまだ続くのでした!」
幸太は午前中に可愛らしい魔女から呪いをかけられたことを思い出す。
「それじゃあどうすれば解けるの?」
「んとね……」
里奈はバトンを置くと、彼が手にした最後の「失敗クッキー」を取り上げる。
「魔女の呪いはお姫様のキスで解けるの……」
そういうと、彼女はクッキーの端っこを噛んだ……。
***―――***
里奈は椅子に座る幸太の膝の上に腰をおろす。
顔が間近に迫ると、薄い桃色のリップクリームに目がいく。ラメが入っているせいできらきらと光る。ホームルームのときに尖らせていた唇はいつもの薄い桃色だったことを思い出すと、今のために塗りなおしたのだと気付く。
可愛らしいと評価されることの多い里奈だが、それは普段のキャラと髪型のせい。
整った睫毛と少し困ったような垂れ目。鼻は低めだが形は悪くない。上唇で隠すことが多い下唇は、本当はぷっくりと弾力のある魅力的な厚さを持つ。
幸太はクッキーの端に口付け、少しずつ、ゆっくりと塩辛い塊を砕く。
「んふふ……」
それが半分に達した頃、里奈のほうから唇を寄せてきた。
ショッパイ塊を縫って潜り込むモノ。舌先で触れると、それは驚いたように縮こまるが、好奇心旺盛らしく、すぐに顔を出す。
「……んっ……ふぅ……」
舌先が触れ合う度に里奈の低い鼻から荒い吐息が零れる。
最初は遅く、だんだんテンポを速め、それにつれて舌先の動きも加速される。
里奈の唾液を啜り、そのまま塩辛いものを飲み込む。
最後に飲み込んだ欠片はチョコレート色かもしれない。
幸太のファーストキスは想像していたより苦かったのだし。
「んふぅ……あはぁ……」
唇を離すと濁った唾液が糸を引く。咀嚼したものを共有する不快感もあるものの、幸太は身を乗り出し、彼女の唇を求めた。
「ダーメ……」
「なんで……りっちゃんからしてきたくせに」
「もう呪いは解けたでしょ?」
「だって……」
唇の端を上げる微笑はまさに小悪魔そのもの。むしろ別の呪いをかけてきたのではないかと疑ってしまう。事実、彼の喉は心理的渇きを覚えている。
「今のが二つ目。もう一つ片付け終わったらしてもいいよ。コータから……」
ニヒヒと笑う彼女の唇は十センチと離れていない。しかし、罅割れの目立つ彼の唇に彼女のひとさし指を添えられると、何故か逆らう気持ちが削がれる。