僕らの関係 学園祭-11
あの日一番悪乗りしたのは誰か?
思い出すと顔から火が出るほど恥ずかしく、文字通り青臭い思い出だ。ただ、そのおかげで他の二人より優位に立てたのも事実。もう少し時間があれば、二人に見つからなかったら、そしたら二人は結ばれていた。
それでも由香は焦りを感じていなかった。
チャンスは毎日だ。その気になれば彼の家に押しかけてもいい。そう思っていた。
ただし、今はそれとは別の感情が芽生えているた。
先ほどまで自分に愛を囁いておきながら、顔の良いあざとい女に見惚れ、スタイルの良い乱暴女に鼻の下を伸ばす幸太が許せなかった。
「どうしたのユカリン、怖い顔して……」
「え、私、そんな顔してた?」
顔の筋肉に引きつるものを感じる。自分の顔を見る方法がなくてよかった。今が暗がりでよかった。きっと今の自分は酷い顔をしていたと思う。
「それより、私ちょっと買い忘れあったから、皆は先に帰っていてよ」
「それぐらい待つよ。僕だって実行委員だし」
幸太は一人走り出そうとする由香を呼び止める。
「幸太ちゃんは二人をエスコートしないとダメよ。あ、でもエッチなことしちゃダメよ?」
「そんなことしないよ!」
「そう? でも、それじゃあね……」
由香はそれだけ言うと、逃げるように走り出す。未だ引きつる顔の筋肉を揉み解しながら、ふと思う。
――まだキスもしてないんだっけ……。
***―――***
学園祭当日、一年C組では予定通りハロウィン喫茶が開かれていた。
里奈は黒いマントを羽織り、先っぽにとんがりをつけた麦藁帽子と竹箒を手に魔女に扮して廊下で客引きをしている。
今年は男女共学を学区内にアピールしているせいか、男子中学生も多い。学校側の宣伝も一応は成功といえるだろう。もっとも、賑わっているのは喫茶や甘味処、バレー部のゲームやチア部のパフォーマンスなどで、肝心の学校案内などは閑古鳥が鳴く始末。
「三番テーブル、コーラ追加、あと焼きそば二つ二番テーブルね。それから……」
メニューには「漆黒の甘露水」に「メデューサの最後」とあるのだが、あまりの忙しさに仮装も忘れてしまう。
由香は衝立の裏でたこ焼きを相手に奮闘し、幸太は注文の合間にクッキーの小分けをしたりと大忙し。
たこ焼きや焼きそばはパックで販売しているせいか売り上げが良く、想定していたよりも回転率が高い。
その理由はひとえに里奈のおかげかもしれない。
「いらっしゃいませー、寄ってくれなきゃイタズラしますよー」
彼女のコスプレと「呪っちゃうよ〜」という間抜けな声に引かれて男子生徒がわらわらと集まってくる。
「里奈、すごい人気ね」
「まったく、調子に乗りすぎ」
元は女子高であった相模原の学園祭だけに、近隣の男子校の生徒達も出会い求めてやってきているのだ。特に顔立ちが良く、笑顔を絶やさない里奈の周りには、下心満載の男子諸氏が群がり、口々に「可愛いね」「似合ってるね」とちやほやしてくれる。ただ、教室の中にまで入る客が少なく、お茶やジュースのはけが悪い。