密心〜みそかなれど〜-1
触れられる肌に逃げ出したくなる衝動がどこか淡くなり、肌にうつる鈍色の痣も淡くなったころ……蔵ノ介さまがいらっしゃった
ちょうどいただいた菓子が二、三個ばかり残るころのこと
今回の菓子はかりかりとした香ばしい菓子で、桃色や水色の淡い色で花の形をした練り菓子だった
小さく咲く、淡い赤や青の様はこの身に残る先の非道の名残に似ていただけに、なぜか胸がざわついていた
――もう、来られないかと思った
「また、会えんしたね。蔵ノ介さまには久しゅうございんす」
そう言えば蔵ノ介さまは微かに笑われた
「……来ぬかと思うくらいならつれぬ真似などするな、みそかのあほう」
「……それ、」
思わず笑ってしまった
牡丹姐さんにも言われた言葉
「あほうと言われて喜ぶな……みそかは変わっているな」
「喜んでなぞいんせん…!……ただ慕う方にも言われた言葉でありんしたので……つい」
空気が――ゆぅらりと変わった
まるで夕刻の逢魔が時から夜に、空が染まるような……自然で不自然な変わり方……
ぞくりとした
「慕う方とは……みそかも大胆だな。客の前で言う言葉ではないぞ」
着物の前合わせをぐいと掴んで引かれ、引き寄せられたかと思うとバッと合わせを開かれる
「きゃ…っ、いきなり……びっくりしんす…驚きん、した…ぁ、ん!はぁ…ん、ぁ、」
胸を吸われちゅくちゅくと胸元から音が響くのさえ、なぜか嬉しかった
久しぶりだからだろうか
――蔵ノ介さまだからだろうか
「他の……客か?」
淡く残る、今はもう小さくなった痣に手を這わされ問われる
気づかれぬかと思ったが……気づかれてしまったか
「そうで、ありんす」
「………そうか」
そう返せば、胸を吸ったままどこか覚束ないながらに端的な返事を返され、どこか肩透かしをくらったような心地になる
「あっ、…ゃあ、は…んん……ぁん」
けれど今はそんなことより久しぶりの甘い感覚に私はすっかり酔い果てていた
心地いい…快い……
どこを愛されても求めていただければ、それだけで嬉しくてたまらなく気持ちよくて酔うばかり