ルーツU-1
初めての恋愛
そう、好きな人に好かれる。
これは思っていたよりもずっと難しいことだった。
もともと臆病な私は
おとなしいとか控えめというよりも
傷つくことに臆病な安物のプライドを持つ私は
自分に好意を持ってくれる「安全パイ」の男が良かった。
だけど
好意を持ってくれたからといって誰でもいい訳でない。
幾人かに告白されることもあったが
そのたびに嫌な気分になった。
モテルといえば素敵な事に聞こえるけど
ごめんなさいと答える重苦しさは、相手の気持ちが
分かるほどに憂鬱な気分にさせた。
どうして好きな人には振り向いてもらえなくて
好きでもない人に好かれるのか・・・
滅多とないチャンスでも「この人」と思える人なら
たった一人でいいのに。
そんな妙なジレンマとアンバランスな十代の終わりに
彼と出会った。
正確には、彼の後輩たちにナンパされたのだ。
良子と二人で遊んでいるところに柳井と高田が声をかけてきた。
見た目は硬派のガッチリした男たちだった。
年齢は4つ5つ上だったろうか。
「電話番号を教えてよ」
当時の決まり文句だけど、メモもペンもない店で
覚えられたらね・・・と安易に電話番号を一度だけ云った。
別れ際でなく、飲みながらおしゃべりしている途中だったので
まさか記憶はないと思っていたのだが
後日電話があった。
自衛官だという彼らは礼儀も言葉遣いも崩れることなく
安心感があった。
ただ、それだけのことだけど次回も遊びに行こうと約束した。
彼らは駐屯地での住み込み組みで、いくつかの班に分かれて生活していた。
彼らの部屋の班長が徹だった。
後輩たちから女の子のナンパに成功した話を聞いて紹介しろ
とでも云われたのだろうか。
いや、徹は人づてに女の子を回してもらうほど困っていなかったはずだ。
彼自身のプライドも許さないであろうほどに自信にあふれた
落ち着きのある大人らしい男だった。
柳井たちと二度目に会って飲んでいるときに
柳井が班長に連絡するように言われていると電話に立った。
私は手洗いに立ったのだが、席に戻る時、電話している
柳井を見かけて近づいた。
「あ、はい。・・・はい。」事務的にハキハキと返事をしている」
「あ・・・はい。 あ、います。 は? え? 代わるんですか?」
どうやら女の子に代われと云っているようだった。
私は面白がって受話器を受け取った。
「もしもし・・?」
「お・・飲んどるそうやな」
初対面・・見ず知らずの相手に横柄な口調だった。
当然、私の年齢なども柳井に報告させていて知ってはいる
だろうけど、会ったこともないのに何て偉そうな男なんだろう。
と私は少々憤慨した。
男らしい男は嫌いじゃない。
だけど、厳しい父のもとで育ったせいか礼儀をわきまえること
や紳士であるべきことを条件としたい私にとっては何だこいつ・・
という感じがした。
「うん。飲んでるよ」
私も敬語をあえて使わないようにした。