Our Music-1
俺は安原直也(ヤスハラナオヤ)、高校一年だ。学力はあまり良くなかったためにこの学校に来た。世間からは『出来の悪い・不良が多い』などと言われているような高校だ。別に不良が多いわけでもないが、ほとんどの生徒はチャラチャラした奴らだ。俺はそんな奴らと仲良くなれるほど人ができてない。
昼休みなんかはよく屋上にいる。そこで俺は大抵クラシックギターを弾いている。ただ、周りからどうこう言われたくないからここで弾いているんだ。ちなみに、俺は下手ではないが適当に弾くことが多い。それで長年弾き続ければ曲数も多くなる。友達はそんなにいないのに…。
その日も俺は屋上にいた。何気なく弾いていると、どこからか歌声が聞こえてきた。とても綺麗な歌声だ。屋上の入口付近に、その歌声の主であろう女がいた。この学校の制服ではあるが知り合いではない。だが、初対面にも関わらず、俺のギターとそいつの歌声は明らかに一つの素晴らしい音楽を作り出していた。
「ごめんなさいね、演奏の邪魔しちゃって。」
曲が終わるとその女は俺に謝ってきた。
「いや、別にいいんだ。名前、何てーの?」
「あ、そっか。私の事知らないんだったね。私は菊池春香(キクチハルカ)。一年三組よ。君は四組の安原君でしょ。」
三組?ただでさえ友達の少ない俺に、他のクラスの知り合いなんているわけがない。
「私が昨日ここに来たら、あなたがギターを弾いていたの。素敵な音だなぁと思って名前聞こうとしたけど、声が掛けられなくて…。」
菊池さんは恥ずかしそうにいった。
「そーいや昨日、お前いたな。」
俺はやっと思い出した。
「何か言いたげだったけど、めんどくさいか素通りしたんだよな、俺。」
「せめて名前だけでもって思って、四組の根本さんに聞いたのよ。」
「なんだ、そういうことだったのか。それにしても菊池さんは歌が上手いんだな。」
「ふふっ、ありがと。」
菊池さんは嬉しそうに答えた。
「歌は好きなのよ。だからたまに音楽とか聞くと口ずさんじゃうのよね。それでさっきもね。」
菊池さんはそう言うと、顔を赤くさせていた。
「いや、そんな恥ずかしがる事はないさ。さっきの歌、マジで上手かったよ。」
俺は心の底から彼女を褒めた。第一、彼女の歌は今まで一度も他人を受け入れなかった俺のギターと、すでにセッションするほど仲良くなっていたのだ。
「なぁ、なんだったらまだ昼休みも長いし、もっと歌わないか?」
「え!いいの?!」
俺が聞くと、菊池さんは嬉しそうに聞き返した。
「もちろん。んじゃ『カントリーロード』なんてどうだ?」
「うん、歌えるわ。」
「よし、んじゃいくぞ。」
それから俺達はいろんな歌を歌った。
「ねぇ、また遊びに行ってもいいかな?」
昼休み終了間際、菊池さんが俺に聞いた。
「あぁ、いいぜ。さすがに雨ん時は無理だけど、俺はいつでも『春香』を待ってるからよ。」
「ふふっ、ありがと『直也』。」
その時の俺は、『急に名前で呼んだらどんな反応するかな?』という、ちょっとした好奇心からそう言ったまでだった。だが、逆にあっさりと、しかもこちらも名前で呼ばれてしまったから、むしろ俺の方がおもしろい反応をしたんじゃないかと思えるくらい困惑していた。