Our Music-3
春香に連れてこられたのは公園だった。この時間になると子供は皆家に帰ってしまうから、人はほとんどいない。そこには街灯が一つあり、その光がベンチを照らしていた。俺達はそのベンチに座ると、少しの間黙りこくってしまったが、俺が先に口を開いた。
「その男をどうして好きになったんだ?」
自分でも悔しいが、どうしても気になってしまう。俺は思い切って聞いてみた。
「私ね、どうしても男の人と仲良くなれなかったの。何話していいのかわからなくなったり、恥ずかしくなったりしちゃってね。でもその人とはよく話せるし、いっしょにいると安心できるのよ。」
勝ち目はない、そう直感した。そこまで彼女の中で存在が大きくなっている奴に勝てるわけがない。俺は意を決した。春香の幸せを願い、そして彼女を諦めようと…。
「告白頑張れよ。」
言葉ではそう言っていても、心の中では『さよなら』と呟いていた。
「うん、わかったよ。」
そう言うと、春香は深呼吸したのち、カバンから何かを取り出した。
「直也君、これ、受け取って下さい!」
「……………はい?!」
俺は驚いた。春香が差し出したのはリボンの付いた小さな袋、間違いなくさっき買った『プレゼント』である。
「好きな男って俺のことだったのか?!」
「私ね、直也と歌ったりした時に、なんか心がすっきりしたの。今までのもやもやが一気に吹き飛んだって感じで。それに最初に『春香』って呼んでくれた時、凄く嬉しかったの…。その時からだろうけど、最近やっと確信できるようになったの。あなたが好きだってことを…。」
そこまで言うと、春香は顔を赤らめた。たぶん俺も赤くなってたろう。
「だから、もし私と付き合ってくれるなら…、このネックレス、受け取って下さい!」
俺は春香が持つ袋を手に取り、その中にあるプレゼントを身につけた。
「これどうかな?」
少し恥ずかしかったが、俺は聞いてみた。
「結構似合ってるよ。」
春香がそう言うと、俺達は同時に笑いだした。
「俺はさ最初、春香の声に惚れてたよ。あの日まで俺以外の人の歌に合わせたことなんてなかったけど、春香がいっしょに歌うようになってから、何となくだけど、俺のギターの音色が良くなった気がしたしな。けど今は少し違う。俺は今、春香の全部が好きだ。」
俺からの告白を、春香は恥ずかしそうに聞いていた。
「好きな人がいるって聞いた時、正直つらかったよ。一時は諦めようかと思ったぜ。だから好きだって言われた時、ホントに嬉しかったよ。人を好きになるのは初めてだけど、これからもよろしくな、春香。」
春香はコクって頷いて、俺に抱きついてきた。街灯の光の中、俺達は長い時間抱き合っていた…。
それからも、俺達はいっしょに歌っている。俺のギターと春香の歌声、その二つは以前と変わらず、俺達だけの音楽を奏でている。以前と違う事といえば、俺達は恋のメロディーも作り続けているということだけだ。終わりのない愛の歌を。
〜END〜