Our Music-2
それからは昼休みになると屋上に行き、『二人だけの音楽会』を開いた。お互い曲のレパートリーが多く、セッションできる曲数も多かった。それに、俺が知らない曲だとしても、春香の歌に合わせて勝手に伴奏を作ることもあった。また、『春香』・『直也』などと呼びあうことにも慣れてきていた。
そんなある日の昼休みのことだ。
「直也、今日の放課後って暇?」
「ん?別にすることも無いけど…。どうしたんだ?」
「あの、よかったら今日買い物に付き合ってくれないかな?」
「え…あぁ、いいよ。」
俺は少し焦った。今まで昼休みなんかはよく一緒にいるが、放課後に会うことは一度もなかった。まさかこんなにも急に誘われるとは思ってもみなかった。
「それじゃあ、校門で待ってるからね。」
そして放課後、俺が校門のところに行くとすでに春香が待っていた。
「悪いな、待ったか?」
「ううん、それじゃあ行きましょ。」
春香は楽しそうに言った。
「そういや今日は何買いに行くんだ?」
歩きながら俺はは聞いた。
「うん、ちょっとしたプレゼントよ。」
春香は少し恥ずかしそうに答えた。
「私ね、好きな人がいるんだけど、今度告白しようと思ってるの。それでその時にアクセサリーか何かをプレゼントにしようとしてるんだけど、選ぶの大変だから直也に手伝ってもらおうと思って…。こんなこと、直也にしか頼めないもの。」
「ふーん……わかった、良いの選ぼうな。」
「直也、ありがとう。」
俺はその時快く返事をしたものの、心は少し重かった。なぜかはわからなかったが、『春香に好きな人がいる』という事を聞いた後ということは確実だった。
アクセサリーショップに着くと、春香はプレゼントを探し始めた。一方の俺といえば、ずっと考え込んでいた。あいつが好きな奴って誰なんだ?どんな奴なんだ?そんな事ばかり考えていた。
「直也、どうしたの?」
「えっ…あぁ、なんでもないよ。」
俺は急に我にかえった。
「大丈夫なの?なんかぼ〜っとしちゃってるけど。」
「あぁ、心配すんな。それより、目的のものは見つかったのか?」
「うん。ねぇ、指輪とネックレスだったらどっちがいいと思う?」
春香は指輪とネックレスを俺に見せた。
「そうだな、ネックレスなら服で隠せて、いつでも身につけてられっからいいんじゃねーの?」
「直也ならそうするの?」
春香はにやけた感じで言った。
「俺がもらうことになったらな。」
俺もにやけて答えた。
「ならこれにしよっと。」
春香は十字架の付いたネックレスを持ってレジに向かった。
もし貰うことになったら…絶対に受け取るし、いつでも身につけるだろうな。『貰うことになったら』なんていうより、むしろ『欲しい』と強く思う。今ならわかる。…俺はいつのまにかあいつを好きになっていたんだ…。
「お待たせ!それじゃあ行きましょ。」
レジから戻ってきた春香は銀色のチェーンに赤い十字架の付いたネックレスを身につけていた。
「おい、それプレゼントにすんじゃねーのか?」
「これは私用のよ。プレゼントは青い十字架のにしたわ。ペアルックにしようと思って。」
ペアルックか…、貰う奴が羨ましいぜ。とは言っても、今さら告白しても断られるだろうしな。
「ねぇ、まだ時間ある?出来れば寄りたい所があるんだけど…。」
春香に言われて時計を見ると、まだ6時前だった。
「いいけど、どこ行くんだ?」
俺は元気のない声で聞き返した。
「いいから、いっしょに来て。」
俺とは対称的に、春香は明るい声で俺を誘った。