光の風 〈回想篇〉後編-6
「何でも背負い過ぎです。それで何が変わるんですか?」
千羅の声に力が入る。
「自分の命を懸けてヴィアルアイを倒して、一体何が変わるんだよ?!」
声を張り上げ千羅は思いをカルサにぶつけた。カルサは閉じていた目を開き、その瞬間をレプリカは黙ってみていた。
「昔は知らない、でも今のヴィアルアイはカルサを苦しめる愉快犯になりつつある。そんな奴を倒して世界が変わるのかよ!」
千羅の声が強く部屋中に反響する。
「世界なんて関係ないところで事が終わるだけじゃねぇか!」
強い強い千羅の思いが叫び声になって外へ出ていく。冷静さを保とうと何も口に出さなかったカルサも思わず感情が高ぶり勢い良く体を起こした瞬間。レプリカの声が二人を止めた。
「ヴィアルアイ様を止めなければ世界は滅びます!」
レプリカの瞳は千羅を真っすぐ捕らえていた。
「邪竜は力ある者を狙う。統率者を失えば世界は滅びます。」
千羅もカルサも、何も言えずレプリカを見ていた。
「だからオフカルスは滅びたんです。」
苦痛の表情で全てを訴える。彼女は環明の記憶を持っている、それ故に鮮明にあの出来事が脳裏に焼き付いていた。
始まりの世界が滅びゆく姿をその目で、環明の記憶でレプリカは知っている。そんな彼女の言葉が重くのしかかる。
「皇子、それでも私の気持ちは千羅さんと同じです。皇帝の力を使おうとしてらっしゃるのであれば、それ以外の道を!」
「言うな、レプリカ!」
レプリカの言葉を遮り、カルサは強く制した。思わず体を引いてしまう程、威圧が感じられた。
「千羅も、これ以上は口を慎め。」
歯を食い縛り、カルサの言葉に従おうとする。千羅の拳は固く強く握りしめられていく。
「オレは皇子としての役目を果たす。それがどのような形であれ、オレが選んだ道だ。分かってくれ。」
落ち着きを取り戻した声は、ほとんど千羅に向けた言葉だった。
カルサは再びレプリカの前に座り、見上げるように位置した。複雑な表情を浮かべ今にも泣きそうなレプリカを黙って見つめる。
レプリカは頭を下げて謝罪をする。
「顔を上げろ。」
涙を拭い、言われたように顔を上げた。必死で涙をこられるように食い縛る姿はどこかリュナに似ている。それがカルサの心を和らげた。
「お前には嘘をつけない。ごまかしも曖昧な態度も、逃げる事も出来ない。」
予想もしない言葉に、必死で食い縛る気持ちが和らいだ。いつのまにか目の前にいるカルサは優しい表情をしていた。
カルサは千羅に傍にくるように促し、近くにきたのを感じると再び視線を前に戻した。