光の風 〈回想篇〉後編-5
「そんな悲しませるような事、絶対にしない!」
分かってほしい。ただ罪悪感を背負うのではなく、自分達の思いを分かってほしい。
諦めるのではなく、遠慮もせずに、自分達の存在を力に変えてほしい。
「笑っていて欲しいんです。背負っているものを分け合えたり代わる事が出来ないのなら、せめて笑っていられる時間を増やせれるように。」
レプリカの熱い思いは千羅の心に共鳴していた。彼女の気持ちが強くなる度、千羅の気持ちも強くなる。目頭が熱くなるのを感じていた。
「笑っていて欲しい。苦しむ顔は見たくないんです。」
ただ傍で一緒に笑い合える事の幸せがどれ程大きなものか、それを分かってほしい。傍にいる者が強く願う程に、貴方達はとてつもない重荷を背負っているのだと。
「だからといって自分達の存在を消すのか?影に撤して、その重荷を更に背負うのはこっちなんだ。」
珍しくカルサの感情がむき出しになっていた。
「素直に喜んで受け入れられる程の余裕もない。そんな器でもないし、後ろめたい事ばかりだ。」
弱音を吐いているのは自分でも分かっていた。しかし古くからの自分を知るレプリカと話をしていると、気を張り、背伸びしていた自分が原点に戻されていく。あの頃の、等身大で精一杯生きてた自分が甦る。
本当は出来るなら、ずっとやりたかった事がある。
「オレは謝りたい。迷惑をかけた古の民や、その末裔達に面と向かって、頭を下げて謝りたいんだ。」
ずっとカルサの心の底にあった気持ち。本来なら謝らなければいけない相手から力を貰いフォローまでして貰っている。自分を慕い、力の限りを尽くしてくれている。
「皆の優しさが辛い。オレはあの女の…。」
言葉に詰まりカルサは視線を下に外した。それは後ろめたさを表している。
握り締められた拳にさらに強く力が加わる。
「玲蘭華とオレは同類だ。」
脳裏に深く刻まれた太古の残酷な出来事は、時を越えても彼らを苦しめ続けている。間接的に、時には直接的に特殊能力という形で彼らを戒めている。
本当なら長い年月を経て進化を遂げ、古の民の持つ力は世界に馴染んでいっただろう。それをいきなり個々に未来へ飛ばされ、生きていかなければならなくなった。
どれほどの苦労か想像もつかない。それを考えるだけでカルサはいたたまれなくなり、自分を責めずにはいられなかった。今の御剣に古の民はほとんどいない。
「世界の歯車を狂わせた女、オレはその場にいたにも関わらず止める事が出来なかった。それだけでオレの罪は重い。それに狂った歯車をこれ以上狂わせないようにする使命がある。」
苦しみが声と表情に滲み出ていた。かたく組み合わせた手が口元で震える。
「それがヴィアルアイを倒すという事ですか。」
付け足すように声を出したのは千羅だった。カルサは応えずに目を閉じる。