光の風 〈回想篇〉後編-4
「何だ?」
合図が下る。
「リュナ様をお守りいただきたいのです。」
レプリカはカルサに対し頭をあげる事無く話し続けた。
「もしここがリュナ様の帰るべき場所になるのであれば、こちらに連れ戻してほしいのです。」
声に力があった。それは強い気持ちの表れ、レプリカの強く主人を思う気持ちが全面に出ていた。
「リュナを取り返してほしいと。」
「はい。」
肯定の返事で体が揺れる。カルサにはレプリカが何を求め、何をやろうとしているか分かっていた。
「リュナの居場所を作る為に、また自分の存在を消すのか。」
カルサの言葉にレプリカの体が無意識に反応した。
「本当は自分が傍に行きたい筈だろう?」
カルサの表情が歪む。それは声の表情となりレプリカにも伝わっていた。
「何がそこまでさせるんだ?」
カルサは椅子から離れ、片膝をついてレプリカの前に座った。頭を下げたままのレプリカにもそれは分かった。
カルサの両手はレプリカの両腕をとらえ、ゆっくりと顔を上げるように促した。抵抗する事無くレプリカは顔を上げていく。
目の前には寂しげな表情を浮かべたカルサが真っすぐに見ていた。
無意識に涙が込み上げてくる。
「何で自由にしようとしない?思うように自分を動かせばいいだけだろう?」
それはカルサの願いでもあった。
「犠牲になる事はない。」
頼むからやめてくれと説得されているように感じられた。その眼差し、熱い思いは深く心に響いてくる。
しかし、向けられた感情は哀れみや同情に近かった。
「犠牲になるという表現は違います。私達は決して自分を犠牲にしたりはしません。」
優しい微笑みがカルサに向けられる。彼女は確かに今、千羅の気持ちも代弁していた。思わず千羅からも笑みがこぼれる。
「家族を守る為に必死になる事は当たり前です。忠義でもなんでもない、好きだから守る。大切だから守りたい、底にあるのは本能です。」
次第に真剣になる表情、眼差しはカルサを捕えて離さなかった。
「自分を犠牲にするという事は命を投げ出す事。私達は絶対にしない。」
感情の高ぶりが声に力を与える。