光の風 〈回想篇〉後編-3
「あの中は寒くなかったか?中で咲いているのは魔界の花といわれているものなんだ。」
「魔界の?」
「寒く薄暗い闇の中で光を放つ花。」
リュナは再び中を見た。しかし外の明るさに比べ暗すぎて中の様子はほとんど見えない。淡い光でさえ存在を明らかにしなかった。
「中の暗闇は魔界と同じですか?」
「おそらくな。環境は似ていると思う。私は中には入れない。とてもじゃないが、身震いして足がここより進まないんだ。」
驚いてリュナは視線を沙更陣に戻す。苦笑いをしている様子を見て冗談ではないと悟った。しかしリュナには不思議でならない、自分は確かに。
「入れました。」
遠慮がちに何故自分は入れたのかを、その一言で投げかける。
「じゃあきっと私は嫌われているのだろう。」
まるで核心に触れたものを優しくかわすように沙更陣は笑った。
「心優しい君をあの花も気に入ったんだろう。きっと優しい人に育てられたんだろうな。」
まるで小さい子供の頭を撫でるように、リュナに触れた。
その時の哀しげな表情は、リュナの目に焼き付いて離れなかった。
「育てられたと、確信を持って話されている辺りが気になります。」
レプリカの言葉にカルサも頷いた。沙更陣の言葉は腑に落ちない事が多かった。両親ではなく育ての親がいると、そうたやすく分かるのだろうか。
古の民の子孫、生まれ変わり、その者達の一部が特殊能力を持ち、さらに一部が御剣としてオフカルスに戻る。その数は少ないとは言えない。一人一人気にし始めたら限りがないだろう。
「風神だから気にしていた。そう言われたら話が終わってしまうな。元素の力を持つ者は特別だ。」
「しかし、万に一つの可能性はありますね。」
カルサに付け足すように千羅が発言した。レプリカが気にするのも分からなくはない。しかし、裏を知っているからこそ気になっているだけの所も少なからずあるだろう。その可能性は否定できない。
「沙更陣に直接聞く。どちらにせよオフカルスには行かなければいけない。」
顔を上げ二人と目を合わせた。千羅もレプリカも頷く。しかし、レプリカの表情は歪み再びカルサに頭を下げた。
「レプリカ?」
「陛下、自分勝手と分かってお願い申し上げます。」
頭は下げたまま言葉を続けた。彼女の様子を見て言わんとしていることが伝わってくる。レプリカはカルサの合図を待っていた。