光の風 〈回想篇〉後編-17
「カルサ。」
名を呼ばれてもすぐには反応出来なかった。ナルの声を聞くのは一体どれくらいぶりなのだろう、時間にしてみれば大したものではないのにひどく懐かしかった。もう当たり前に聞く事が出来ない声。
「カルサ、私を呼んだのでしょう?」
「ああ、呼んだ。」
ナルに誘導され、やっと声になった。やっと笑えた。
「ごめんな、ナル。」
カルサの言葉にナルは首を横に振った。
「可愛い子の為よ、喜んで応えるわ。貴方なら私の気持ち分かるでしょう。」
今までと変わらないナルの言葉に自然と笑みがこぼれる。穏やかな時が続くように思われた、しかしナルの目に見覚えのある手紙が入ってしまった。
ナルの視線の先が変わった事にカルサは気付く。
「読んだのね。」
手元にある手紙を見た。視線はそのままで肯定の返事をする。
「前々からリュナと聖には目を光らせるように瑛琳と千羅に頼んでいたんだ。」
「それで良かったと思うわ。」
やはり自分達を見張っていた、その事実をレプリカは静かに受けとめた。カルサの立場を考えれば当たり前なのだろう。
レプリカは一度落とした視線をカルサを見上げる形で起こした。彼の視線は未だ、手元にある手紙から動かない。
「オレは一番見なければいけないものを長い間見落としていたのか。」
落胆、それよりも今までの自分を咎めているように見えた。それは後向きではない姿勢。
「私も気が付かなかった。というよりも、気付ける筈がなかった。」
カルサの視線が手元からナルに移る。含みのある言い方はこれから来る波を予感させるものだった。
「どういう意味だ?」
自ら核心に迫る。一呼吸おいてナルは答えた。
「それが私の死に関わる事だから。」
カルサの目が大きく開く。強く響く声に全てが揺らぎそうになった。だって今の言葉はまるで信じる事が出来ない事実を言われるような気がして。
占者は自分の能力に応じて様々な未来や過去、世界を見ることが出来る。しかしどんなに強い力を持つ占者でも自分の生死に関わる出来事は見れないと言われていた。
それ以外にも占者の力以上の相手は見る事が困難であるとか、見る相手が魔法に対して強く拒むことが出来たりすると見えないとも言われている。
しかしナルはそれらの可能性を出さずに1つの理由をカルサに渡した。それは事実を意味していた。