光の風 〈回想篇〉後編-16
「彼女に会えるのは一度きり、いいわね?」
圭の言葉にゆっくりと立ち上がる。それは圭も気配で感じていた。
「ああ。それで十分だ。」
カルサの答えを受け、圭は振り返り初めて真正面からカルサと向き合った。
お互いにあの頃とは姿が違う。抱えているものも背負っているものも違っている。言葉にできない複雑な感情が二人を締めつけた。
「始めるわ。」
圭はもう一度カルサに背を向けてナルに集中した。彼女の左肩に触れて空を仰ぐように辺りを見回す。
「まだ、ここにいるんでしょう?ナル・ドゥイル。」
圭のその言葉をきっかけに耳鳴りのような高い音が静かに鳴り始めた。小さな音がいくつも重なり合って、いつしかそれは鈴の音のように響き渡る。
そこにある全ての物に音が反響しているように、高く低い様々な色を見せる音が鈴の音のように響いていた。その場に生まれてくる音は色付き姿を現す。
半透明の球体が様々な色や大きさで生まれ、音と共に弾けて消える。それは言葉を失うほど美しく、はかない。
「カルサトルナス。」
圭がカルサを呼んだ。
その目の先には自らの枕元に立つナルの姿があった。淡く色付いた姿は、その体を通して奥の景色が伺える。もう実体がないのだと改めて感じさせた。
目を閉じたまま、ナルは立っている。
「ナル。」
怖さを隠して名前を呼んでみた。その表情は隠しきれない不安が溢れている。
未だ鳴り止まない鈴の音が何故かカルサを焦らせた。懐にあるナルからの手紙を取り出し、手紙とナルと何往復も視線が移動した。
答えて欲しい。
この手紙の内容について、そしてもう一度言葉を交わしたい。求める気持ちは大きすぎて自然と体が前のめりになる。
圭は横で静かにカルサを見ていた。今の彼はナルしか見えていない。他の者もそうだった。
改めて周りの思いを感じとると、圭は意識をナルに移し手をかざした。
「目覚めなさい、ナル・ドゥイル。」
そしてかざしてあった手を勢い良く振り落とす。
その瞬間、それまでうるさいくらいに響いていた音は消え、ナルはゆっくりと目を開けた。
そこにいた者は自然と構える。ナルの目蓋があがるにつれて緊張が増していった。途中まで開いた目は一回瞬きをして完全に目を開ける。
顔を上げて真っ先に目が合ったのはカルサだった。
優しく微笑み、いつものように彼の名を呼ぶ。