光の風 〈回想篇〉後編-11
「なんだ、じゃあ弟思いのいい兄ちゃんだったって事か。」
闇を一瞬にして裂く、不思議な力を持った声が響いた。次の瞬間、カルサと千羅の肩に体重がかかる。
二人の間に割って入るようにして、見慣れた姿が現れた。
「な?!」
笑顔で3人に同意を求める。そこにいた全員は一斉に声をあげ彼の名を叫んだ。
「貴未(さん)!?」
「ようよう、ただいま〜!」
さっきまでの空気を全く気にする様子もなく、貴未は元気良く立ち上がった。いつもと変わらぬ笑みで周りを自分のペースに引き込んでいく。
「話し込んでるみたいじゃないの?えーと、セーラ?でいいかな?調子はどう?」
「え?あ、はい。大丈夫です。」
急に話をふられ、とまどいながらもレプリカは答えた。彼女の顔色から間に合わせの返事でない事を察し、貴未は満足気にそうか、と頷く。
「降って湧いたように出てくるなよ!」
あまりのマイペースさに見兼ねたカルサが声を上げた。
「注意力散漫!いつものあんたらなら気付いたでしょうに。」
痛い所を突かれ己のいたらなさにそれぞれが静かに反省した。貴未の登場でさっきまでの空気が嘘のように部屋の中が明るくなった。
それは貴未に感謝しなくてはいけない。
「ありがとう、貴未。」
カルサの言葉に貴未は笑顔で返す。
「これから行くのか?」
「いや、もう行ってきた。瑛琳とこにいるよ。」
あまりの仕事の早さにカルサ達は驚きを隠せなかった。そんな彼らをよそに貴未の意識はレプリカに向けられる。
「古の民だって?」
「はい。」
貴未の言葉にレプリカは真っすぐ答えた。貴未は微笑み、レプリカに手を差し伸べる。
「オレはカリオ出身なんだ。」
レプリカの表情が変わる。その反応を見て貴未の考えはまとまった。
「カルサ、話は進んだ?まだ続きそう?」
「だいたいは終わった。どうかしたか?」
「セーラも連れていこう。セーラの記憶はオレ達に必要だ。」
貴未はもう一度レプリカに手を差し伸べる。しかしレプリカはその手を取るのにとまどいを隠せなかった。
「何故そう思う?」
「カリオを知ってる。神官の関係者だろ?」
貴未の目が鋭く光った。いつもと変わらない笑顔の中にも責め突き立てる圧力を感じる。レプリカもそれに感化されるように神経を研ぎ澄ませた。