崩壊〜結末〜-3
「私も、いつまでも、あの病院に居るか分からないし」
「そんな。何処かに行っちゃうんですか?」
思いもせぬことに思わず身を乗り出す。そのすがるような瞳に、涼子は優しく微笑み返す。
「ひょっとしたらよ。今、すぐって意味じゃないわ」
「な〜んだあ!びっくりしたあッ」
心配が杞憂だったことに安堵した仁志は、嬉しそうな顔をすると乗り出した身体を元に戻した。
「もし、私が居なくなっても、新しい先生によく伝えておくわよ」
「イヤですよ。涼子さん以外の人に裸を見られるなんて」
「なあに。お尻に指を入れられたら立っちゃうから?」
イタズラっぽい目を向けると、仁志は顔を赤らめ俯く。
「そんな…意味じゃありませんよ。ただ、涼子さんに診てもらいたくて…」
ズバリ言い当てられてバツが悪いのか。そんな顔に、涼子は優しく否定の言葉を送る。
「気持ちは嬉しいけど、それは無理よ。通常、掛りつけの病院に診てもらうものだから。今の病院で診てもらいなさい」
言い含めると、話をそこで終わらせて話題を変えた。
「それより、その為だけに此処に来たわけじゃないでしょう?」
涼子の言葉に、心臓が大きく脈打つ。いよいよその時を迎えたと思うと気持ちが昂ぶる。
そんな仁志の変化に、凉子は追い打ちを掛ける。
「どつしたの?言わなきゃ分からないわよ」
逃げ場が無くなった。覚悟をした仁志は顔を上げて真っ直ぐに涼子を見た。
「涼子さん。黙って聞いて欲しいんだ」
「な、何を…?」
雰囲気から、ただならぬことだと思った涼子は、身構えて次の言葉を待った。
「何故、ボクを他人に預けたの?」
凍りつくような静寂が流れた。言い放った仁志は厳しい、聞かされた涼子は狼狽えた顔をしていた。
「どうして…それを知ったの?」
「昨夜、親父と話してるのを聞きました」
「そう。私としたことが、しくじったわね…」
深いため息を吐く涼子。対する仁志は強い口調で言い放った。
「今まで知らぬ顔をして、ほったらかしにするなんてひどいじゃないか!」
「ごめんなさい。なんと言われようが仕方ないわ」
凉子は深々と頭を下げた。
「何故、ボクを預けなくちゃならなかったの?」
仁志の問いかけに涼子は、言葉を選んで語り掛ける。
「私は18歳であなたを生んだ。でも、あなたが1歳の時に私の両親は事故で亡くなったの。
私は別の親戚の元に身を寄せたけど、あなたは叔母夫婦が預かってくれた。
その時の約束が、あなたが18歳になるまで親子の名乗りをしない事だったの」
聞かされた真実の重さに、仁志は奥歯を噛んで受け止めた。