崩壊〜結末〜-2
「美味しかった?」
「はい。とても」
「そう。良かった」
仁志の笑顔に涼子は、慈愛に溢れた柔らかな笑顔で嬉しそうに微笑む。
使われた食器を流しに片付けると、ひとつ々を洗いだした。
食事を終えた仁志は、差し出されたコーヒーをひと口すすった。
「身体は?温まった」
「はい。食事とコーヒーで、生き返りました」
「そう。良かったわ…」
柔らかな笑顔を向ける涼子を見た仁志は、一転、真剣な顔を彼女に向けた。
「あの、涼子さん」
「なに?どうしたの」
仁志は、2人の関係について涼子に訴えようと考えた。
そんな仁志に対し、涼子は柔らかな表情で覗き込む。
「オレは……」
「なあに?もったいぶって」
“何故、オレは他人に預けられたのですか?”
そのひと言が出て来ない。
心の中に秘めた言葉を、仁志は呑み込むと、
「い、いや…こんな美味しいモノ、久しぶりに食べたなって」
適当なことを言ってごまかした。
そんな息子の在り方に涼子は不可解さを嗅ぎ取るが、それ以上、追求をしなかった。
「ところで、今日はどうしたの?昨日の夜、あなたに言ったはずでしょう」
「昨日は、どうかしていました。すいませんでした」
仁志はペコリと頭を下げた。
「あの…昨夜、聞く予定だった検査の結果を…」
「そうだったわね!すっかり忘れてたわ」
涼子は、両手を合わせてパンッと鳴らすと慌ててリビングに駆けて行き、1枚の紙切れを持って戻って来た。
大腸の生体検査結果が明記された書面。
「えっと…とりたてて異常は無いわね」
涼子は、折りたたまれた書面を広げて仁志に指差す。
様々な検査による結果は、陰性を示していた。
「だったら、何で…?」
仁志は結果に安堵するが、何故、血便がひと月も続いたのか納得いかなかった。
「高校入学とか、環境の変化に伴うストレスが原因じゃないかしら」
柔和さは消え、冷徹さが宿る医師としての顔で涼子は伝える。
「この間も言ったけど、今後は年に2回、4〜5年位、検査を受けなさい」
「…すると、20歳過ぎまで涼子さんに裸を見られるんですねえ」
仁志は感慨を込めて言ったつもりだった。が、涼子は目を泳がせ顔を強張らせる。
「それは分からないわよ」
そう言うと、すぐに努めて明るい顔で仁志を見つめた。