多分、救いのない話。-7--7
神栖が行方不明になったのは、そのすぐ後だ。
何処に行ったのか、葉月は知らない。分かるはずもなかった。
(何処に行ったんだ、神栖……)
過剰な自責の念は、生徒に自らの欺瞞を見抜かれたことにある。
『先生? 誰を見てますか?』
葉月は、生徒を見ていなかった。
助けたかったのは、神栖ではなく――過去の自分なのだと、気付かされたのだ。
「情けねぇ……」
自嘲の呟きも、繁華街の喧騒に溶けていく。
こんなにも人は大勢いるのに、誰一人として葉月に気を留めない。一人よりも遥かに孤独を感じた。
ここには誰も、葉月を知る人間は、
「!!?」
――一瞬、だった。或いは似ていた人かも知れない。もしくはただの見間違いかもしれない。
だけど、あの青いリボンは、大事に大事にしていたあのリボンは、ずっと印象に残っていて――
「神栖っ!!」
周りの迷惑そうな気配を無視し、その人物に駆け寄る。
欺瞞だったとしても。偽善だったとしても。
本当は、何も見ていなかったのだとしても。
助けたい、傷つけられるなんておかしい、その激情は、間違いなく葉月の中にある。
それに、あの透明な笑顔は。
もしここでその手を取れなかったら、
一生、風のようにこの手をすり抜けてしまうような、そんな気がして。
「神栖……」
だから、葉月は、その手を掴んだ。
「…わあ? 先生?」
その間延びした、本当に驚いているのか分からないのんびりとした口調は、紛れもなくいつもの神栖慈愛だった。
「……ごめん、な」
意識せずに口に出たのは、謝罪の言葉。
「俺、神栖のこと、何にも見ようとしてなかったな……」
突然現れ、突然謝られて、神栖はきょとんとしていた。
だけどすぐに、あの人懐っこい笑顔を見せて。
「……メグも、ごめんなさいなのです。でも、先生」
悪戯っぽく、最高に晴れやかな笑顔で。
「メグ、勝ったんですよ。お母さん、ずっと優しいお母さんでいてくれるって」
だからもう、大丈夫。大丈夫なんです。
狂熱のような、しかし当り前のような、断定。
その言い方に違和感を覚えたけれど。
今は再会を喜ぼう。