多分、救いのない話。-7--5
「あの、あんたは?」
「はいはい。まあ。慈愛さんのことは。それなりに知ってはいますけどねぇ。親御さんとの関係が中々複雑であることは」
「…………」
「こいつが大事なのは学園だからな」
「神栖さんの寄付がなくなると。色々と運営上問題が出て、まあ理事長に怒られるのでねぇ」
「……いや、わかりました。しゃあないですわ、警察には確かに言わなあかんいうんは。わかるつもりです」
「まあねぇ。仕方ないんですよ。あ、折角ですから。あなたも……えーっと」
「あ、火口です。自己紹介が遅れてすみません」
「いやいや、折角ですから。木下はいい酒隠してるんですよ」
「金田一は旨い酒を嗅ぎわけるのだけは昔からうまいからな」
「ささ。どうぞどうぞ。……いや、しかし。本当にどこに行ったんでしょうね」
「私も知らない。慈愛くんの行きそうな場所なんてわからんよ。むしろ母親の方が詳しいだろう、そういうのは」
「社長もわからん言うてます」
「君も騙されやすいな。嘘に決まってるだろう」
「神栖さんは嘘が上手いですが、上手すぎて逆に嘘をついてるというのがわかるんですな」
「……どういうことですねん?」
「居場所は分かっているんだろう。おそらくな」
「ボクもそう思います。まあ、教師としての勘…あはは。ボクがこういうの言うのもおかしいんですけどね」
「こいつは昔、あの子の担任教師だったんだよ」
「あの子、」
「中学時代。……あはは。最初に受け持った生徒でした。色々印象的な子でしたねぇ」
「って。社長の中学時代の!?」
「まぁ。慈愛さんが初等部に入学するまでは疎遠でしたがね……あの子がわからないのは、きっと慈愛さんに対する態度なんじゃないですかねぇ」
「メグちゃんに、対する……」
「迷ってるんだろう、あの子なりにな」
「躊躇してるのかもしれませんね。初めてのことだろうし」
「あるいはもっと何か事情があるか」
「だとしても私達は知りません。……すみませんねぇ、どうも火口さんの、神栖さんたちの力にはなれないみたいです」
「いえ。貴重なご意見でした」
「火口」
「なんですか?」
「君は関わらない方がいいかもしれない」
「また木下は無茶を言う。これだけ関わって今更知らんぷりなんて無理なんだよ、お前と違って」
「お前とも違ってな」
「まぁ、無視できるならその方がいいんですがねぇ。どうも火口さんはそんなふうなことは出来そうにないですな」
「まあ、すまない。失言だ、忘れてくれ」
「ただまあ。優先順位は決めておかないと。物事というのは得てして全ては、或いは一番は手に入らないものです。……はは、老人の戯言ですから。まぁ気になさらないでください」
「……わかりました」
――だが結局、火口がこの忠告を聞き入ることは出来なかった。
忠告は無意味に終わり、火口はすべてを失いつつある。