憂と聖と過去と未来 2-1
『佐山と付き合うことになった』
そう聖からメールで連絡があった翌朝、聖がマンションの前に姿を現すことはなかった。
どうやら二人は一緒に登校したらしい。
あたしがそのことに気付いたのは、もう遅刻ぎりぎりの時間だった。
それならそうと言ってくれればよかったのに。
待っている途中であたしが聖に連絡を入れればよかったのだが、あたしと聖は学校を欠席するだとか、朝から課外授業があるだとか、何かそういう事情がない限り毎日一緒に登校していたから全く気にしていなかった。
そういうときはお互い前もって連絡していたし。
あたしは久しぶりの一人の朝がつまらないと思いながら、だらだらと登校することにした。
***
学校に着いた頃には、もうホームルームは終わり、一時限目が始まっていた。
あたしは聖が気になって、二組の前を通る際に教室の中に視線を向けた。
歩きながらだったため少しの間しか確認できなかったが、聖は机に突っ伏して寝ていた。
朝が早かったからきつかったのだろう。
そんなことを思いながら四組の教室に入る。
たまたま一時限目は担任の受け持つ教科だったので連絡を入れずに来たが、少しの遅刻でも一言連絡を入れるようにと注意された。
受験生は出席日数が重要だと、偶然できたあたしという例を使って語りだす担任をクラスメイトはうざがっているようだ。
担任が自分の世界に入っている間に、あたしは席について数学の教科書を準備した。
突然隣の席の男子から、柊が遅刻なんてめずらしいな、なんて言われたが軽く流した。
授業が再開され、しんと静まり返った教室は相変わらず居心地が悪い。
あたしは試験はそれなりにできていたが、勉強は嫌いだった。
無論、一夜漬け派である。
試験前日は、だいたい聖とどちらかの家で勉強している。
授業はいつも退屈で、いつも周囲の人間観察に勤しんでいた。
「…」
ふと斜め前に座っている佐山さんに目がいく。
どうやって聖をたった数日で…
そんなことを考えていると、佐山さんはあたしの視線を感じたのかこちらを向いた。
振り返ったその顔は、幸せです、というオーラが溢れんばかりに出ており、あたしに向かって小さくピースした。
普段、ピースなんてしない佐山さんだから、聖と付き合えてとてもうれしかったんだろう。
あたしは複雑な気分になりながら、それを愛想笑いでさらりと返すことにしたのだった。