憂と聖と過去と未来 2-8
気付けばあたしは聖に肩を掴まれて無理やり座らされていた。
「ちょっと、自分でできるから!」
「いいよ、ついでだ」
聖は全然言うことを聞かないし、機嫌がいいのか常に笑っている。
仕方なく、言うことをきくことにした。
「……いったぁ」
「我慢我慢」
聖は何故か、慣れた手つきで消毒をしてくれる。
相変わらず足から視線を外さないから恥ずかしい。
「……憂」
「なに?」
消毒を終えた頃、聖が小さな声で言った。
「…ごめんな。一緒にいられなくて」
その言葉を聞いた瞬間、心臓が激しく動きだした。
「…あたしも、あんな大きなこと言ってたくせに」
「…あたしと聖の関係は、絶対に崩させない…だったか?」
「うん」
なんだかもう随分と前の話な気がする。
しばらく無言で向かい合っていたが、聖が小さく息を吐いて言った。
「……憂」
「なに?」
「弁当、お前のほうがうまいぞ」
その瞬間、堪えに堪えた涙が再び堰を切って溢れだした。
「…うっ…ううっ…ひぐっ…」
あたし、聖が……
聖が…好きなんだよっ……
「……泣くなよ」
聖はあたしの頭をぽんっと叩いた。
このとき、どんなに聖の胸に飛び込みたかったか。
でもできなかった。
聖もそんなつもりで言ったんじゃない。
わかってる。
だから、期待はしないよ。
「…じゃあ俺、行くからな」
「…うん」
「落ち着いたら戻れよ」
「うん」
「あ、あと、クラス代表リレー、俺アンカーだから見とけよな」
「うん!」
聖はそれだけ言って、保健室から出て行った。
聖も、きっとあたしと話せたのがうれしかったんだと思う。
あんなに笑って、あんなに自分のことをしゃべる聖は、今まで滅多になかったから。
聖、あたし決めたよ。
聖のこと、諦めずにいる。
種を蒔いたのはあたしだけど、だからっていつまでもうじうじしていられないんだよね。
今日、聖と話せてよかった。
ありがとう、聖。