憂と聖と過去と未来 2-7
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あたしはクラスメイトにばれないように保健室へ向かった。
気丈にはしていたけど、やっぱり痛いものは痛い。
しかし、保健室に到着したが扉には退室中の掛け札。
なんてことだ。
一瞬、頭を抱えそうになる。
体育祭だぞ。
あたし以外にも怪我している生徒はいるだろうに。
呑気にテントの中で応援でもしているのだろうか。
はっきり言って膝はじくじくと痛みを発しているし、消毒くらいはしたい。
でも呼びに行くのは面倒くさい。
あたしはドアに手をかけた。
そこでつい、ふっと笑ってしまう。
予想通り、ドアは抵抗もなく横に滑ったのだ。
勝手に使わせてもらおう。
そうやって保健室に入った途端、思いがけない光景に目を疑いそうになった。
「…憂」
「……」
目の前には、肘に消毒液を塗っている聖。
予想外だ。
こんなところで久しぶりに顔を合わせるなんて思いもしなかった。
「……お前も悪いやつだな。勝手に侵入するなんて」
聖はそう言うと、少しだけ笑った。
聖。いつもの聖だ。
やばい、涙が…
途端に溢れてくる涙を止められず、床にぽつぽつと雫を落としてしまった。
「……おい」
聖が慌てているのが、顔を見なくてもわかる。
心配かけたくない。
あたしは慌てて顔を拭う。
「…あはっ、あんたもじゃない」
「……膝、怪我したのか?」
聖の視線はあたしの足に移る。
「ちょっと…恥ずかしいから見ないでよ」
「……悪い」
聖の視線を感じて異常に顔が熱くなった。
「…聖も怪我したの?」
「ああ、さっきの騎馬戦で」
「そう…」
あたしは聖の姿を見逃していた。
いや、自然に見ないようにしようとしていたのかもしれない。
「憂は?」
「あたしは、障害物競争」
「転んだのか?」
「……うん。でも一番だったもん!」
聖も、あたしのこと見てなかったんだね。
「…そうか、じゃあここ座れよ。ご褒美に思いっきり消毒してやる」
「……へ?」