憂と聖と過去と未来 2-6
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それから何事もなく季節は変わり、夏が訪れた。
明日は高校の体育祭。
教室のベランダからグラウンドを覗くと、応援団がリハーサルを行っていた。
放課後なのにご苦労なことだ。
あたしはなぜ学校に残っているのかというと、特に意味はなかった。
なんとなく残ったりしたのは今日が初めてだが、帰ってもすることはないし、時間潰し程度にしか考えていない。
そういえば、聖だけでなく佐山さんも今では話す機会がまったくなかった。
苦笑いしながらも佐山さんのために協力していたあの数日は何だったのだろう。
無意味にそんなことを考えていた。
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体育祭当日。
運よく空は曇っていて、日焼けの心配も暑い思いもさほどしなかった。
行事自体もトラブルなく進行している。
しかし、あたしはたった今、障害物競争の際に転んでしまった。
運動神経には自信があるので、当然のように先頭でハードルや平均台をクリアして独走していたのだが最後の直線で躓いてしまったのだ。
我ながらなんて詰めが甘い。
障害物をうまく抜けておいて何もないところで転けるなんて。
すぐに立ち上がって走るのを再開したため一位はしっかり死守したが、膝からは血が滲んでいる。
競争を見ていた知らない生徒に笑われるのは気にしないが、聖に恥ずかしい姿を見せたかもしれないことがあたしの顔を熱くした。
退場して席に戻ると、クラスメイトが突然あたしを囲んだ。
速かったね、ナイスガッツ、怪我は大丈夫?
男女関係なくひっきりなしにそんな言葉をかけられ、あたしは笑うしかなかった。
でも、意外と嫌じゃなかった。
何をすることにも興味が湧かない今の自分でも、誉められるし、心配される。
こうやって変わらず時は進んでいく。
聖は見ていたのだろうか。
いつもなら、真っ先に誉めてくれるし、心配してくれるし、お前は本当に負けず嫌いだな、って余計な事まで言ってくれるのに。