憂と聖と過去と未来 2-5
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あたしはベッドにうずくまったまま、無意識に携帯を開いた。
“聖”と表記された発信履歴はしばらく停まったまま。
このままでは聖の声も忘れてしまいそう。
そんなことあるはずもないのに、完全に気持ちが滅入っていてそんなことをぼんやりと考えていた。
聖という大切な存在を失うことは、あたしにとってとても大きなことだった。
あれからもう数日、聖と連絡をとっておらず、顔も合わせていない。
一度、佐山さんとはどう?とメールを送ったが返ってこなかった。
メールを返す暇もないほど佐山さんに夢中なのだろうか。
聖はもうあたしのことを必要としていないのだろうか。
でも逆に、気付けばあたしの生活は聖がすべてだったんだ。
聖と離れてわかった。
お弁当だって聖と食べたいときはわざと多めにおかずを作っていた。
登下校だって聖と一緒がいいから時間を無理やり合わせていた。
勉強だって聖と一緒に一夜漬けするのが楽しいから普段真面目にやれなかった。
今の聖には、お弁当を作ってくれる人がいて、朝も帰りも一緒の人がいて、勉強だっておしえてくれる人がいて。
あたしだけが、聖を必要としている。
今のあたしはなにをするにもやる気が出ず、遅刻したり欠席したりすることも多くなった。
気付けばあたしは、自分のためにやりたいことなど何も持ち合わせてはいなかったのだ。
看護士を目指そうと思ったのだって…
あたしはそのまま静かに微睡み、やがて落ちていった。