Summer〜君がくれたもの〜[咲弥編]-6
『焦燥』
朝、起きてみれば簡単だった。そこは、俺の学校のけっこう近くにあった公園だった。家から反対側だし、こちらに来るような機会がなかったのですぐには気が付けなかった。俺は親にはなんとも言われなかったけど、送って行った咲弥はあからさまに家族を気にして忍び込むように家の中に入っていった。
『今日の放課後ね♪』と約束と眩しい笑顔を残して。
俺は家で気の済むまで寝た。だから、学校に行ったのは昼飯を食べた後になった。放課後ってことは、学校に行かなくては仕方がない。(熟語的に)だからって、授業を受ける気はなかった。空にはこの季節に珍しく雲も少なく、授業を受けるのはもったいないような上天気だ。空の機嫌も手伝ってか、今日は珍しく温かかったから、屋上で寝そべってるのも悪くなかった。
悠木「咲弥・・・。か・・・」
思い出していた。夜歩きながら話したことを。癒されるっていうのは、ああいうことなのかもしれない。彼女が恋しくなった。今にでも会いたくなった。時間が経つのが非常に遅い。思い立てば、人間なんてすぐに動くものだ。俺は階段を駆け下りていた。
悠木「つーか、こんな時間じゃ授業中か。普通・・・」
学校へ来てみたはいいものの、そもそも知っているのは学校だけ。年上(見えないけど)かタメかもわからない。クラスがわからないので中に入るわけにもいかない(授業中に顔を出す気はないが)。ブラつくにしても、教師に見つかったらなんか言われるだろうし、俺は知らない学校を散策するほどの冒険家でもないので、大人しく近くのコンビニまで足を伸ばした。
時間的に、良くて30分。悪ければ1時間以上も待たなくてはいけない。思いつきって怖いものだ。俺はちょっと憂鬱な気持でドアを開けたのだが、そんな気持はすぐに吹き飛んだ。
咲弥「いらっしゃ・・・・いませ。悠木君?」
悠木「おす」
咲弥「サボリ?ダメだよ?」
制服に髪を後ろでまとめている彼女は、また何か昨日(今日)とは別の魅力があって。俺の思考は数秒間止まっていた。
咲弥「悠木君?」
悠木「バイト?」
咲弥「うん。灯台もと暗しってやつかな?」
結果オーライというか、まぁ。『会えた』から。
咲弥「悠木君はサボりでしょ?ダメだよ?」
悠木「人のこと言える?」
咲弥「う〜ん。ご想像にお任せします(笑)」
楽しかった。懐かしいと思った。こんなことを、俺はずいぶんと忘れていた気がした。
咲弥「お待ちどーさま。どっか行こ」
彼女のバイトが終わるまで、俺は立ち読み買い食いで時間を潰した。サスガにずっとレジのお姉ちゃんと話し込んでいるわけにはいかないから。
振り返った俺が、その瞳に写したもの。それがショックであり、焦燥という気持を俺の心に押しつけた。
最近屋上にいることが多い。本当に多い。考える事が多くなった。多分それだけじゃないと思う。きっと・・・。
俺は、咲弥と亜季を重ねてた。意識はしてない。でも、俺の心の奥では。まだ割り切れてもなけれない。近い存在を見つけて、傷を無理矢理塞ごうとしている。そう自覚してしまうと、咲弥と会ってもギクシャクしてしまう。自分だけで・・・。何回だろう。彼女を傷つけたのは。きっと彼女は俺のことを好きでいてくれていると思う。でも、それをずるずると引きずって、また夏を迎えた。もうすぐあれから一年が経とうとしていた。