恋愛の神様・前編-5
「祐希…」
「何?」
何回呼んでも同じ振り向き方。あたしの大好きな角度。
すれ違う同級生達も何の違和感もなく、スカートを穿いた祐希に声を掛ける。
ほんとに、夢じゃないの?
「実果?」
「へ?」
「ぼーっとしてどうしたの?まだお腹痛い?」
「あ、や、そーゆうわけじゃ…」
「実果は生理痛重いからね。調子悪くなったらちゃんと言いなよ」
「……うん、ありがとう」
夢にしては長すぎるし、感覚にリアリティがありすぎる。
これが現実なの?
何で?
昨日のお昼まではいつもと同じだったじゃない。
ただいつもよりお腹が痛くて、それを心配してくれない祐希に腹が立って、女心の分かるできた人間になってくれたらなんて考えてたら…
…声が、聞こえたんだ。
『それ、叶えてやるよ』
確かにそう言った。
気のせいじゃなかったのか。
あれは誰の声?
あの場にはあたししかいなかったし、外から聞こえた声でもなかった。
誰かに話しかけていたわけでもない。ただ、心の中で恋愛の神様って―――
―――恋愛の神様?
「…まさか」
ポケットの中のお守りを取り出して、マジマジと見つめた。
軽薄なピンクに赤いハート型の鈴。
何度見ても御利益はなさそう。
『恋愛の神様がいるんだって』
お姉ちゃんはそう言ってたけど…、んなバカな。
そりゃ神社自体に神様はいるかもしれないけど、こんなお守りの一つ一つにいるわけないじゃない。
理屈では分かってるのに、お守りから目が離せなかった。
もし、これが本当に恋愛の神様の仕業だとしたら…
つまり、何?
女心が分かる=女の子になる
って事!?
そりゃないでしょ。今までの人生、どんな願い事をしても全く叶えてもらえなかったのよ?なのに、あんな妄想染みた願いはこんな単純な形で叶っちゃうわけ?
すっっっごい熱心にお参りして、お賽銭だって奮発して100円も出したのに。
結果これ?
御利益ゼロじゃん!それどころかむしろマイナス!!
あたし達は永久に結ばれない関係になっちゃったじゃないのよ!!!!
待って待って。
て事は。
早い話、祐希のこの姿は、あたしのせい…
全身から一斉に血の気が引いていく。