恋愛の神様・前編-4
「ねぇ、祐希は?」
「便所。ほら、お前の荷物」
授業はとっくに終わっていて、夕日でオレンジに色付いたグラウンドからは運動部の活気ある声が聞こえてくる。
二時間も寝てたんだ…
のそのそとベッドから起き上がったその時、保健室のドアが開いた。当然祐希だと思って顔を上げる、が、
「実果起きた?」
ヒョイとベッドスペースに顔を出すのは、…女の子。
あれ、祐希じゃない。
って、え?
「…誰?」
呆けるあたしを見て八代と女の子は眉間にシワを寄せた。
「何、生理痛で頭おかしくなっちゃったの?」
「マジかよ、女って大変だな」
いや、いやいや、何を言ってるの?
八代の隣にいるその子は全く知らない子。実果と呼び捨てられる覚えもない。それより、
「祐希は?」
聞くと、今度は二人顔を見合わせて吹き出した。
「お前大丈夫か!」
「どうしちゃったの、実果。あたしの顔忘れたの?」
「へ?」
「あたし、祐希」
祐希…?
「やだ、そんな冗談。全然笑えないし」
「あのね、冗談言ってるのはそっちでしょ?悪ふざけはいいから、もう帰るよ」
祐希と名乗るその子は、少し苛立った様子であたしの手を掴んだ。
「…っ」
瞬間、全身に鳥肌が立つ。
その手は華奢な女の子の物だけど、手の甲にある小さなほくろや爪の形は祐希と全く同じ。
それどころか、よく見たら色素の薄い髪もうなじまで伸びたその長さも一緒。耳の形も、シャンプーの香りも、そう言えばどことなく顔の作りまで似てるような、でもまさか…
「…祐、希?」
恐る恐る呼ぶと、
「何?」
振り向き方まで同じだった。
これは夢?
それとも凝ったドッキリ?
祐希と八代であたしをからかってるとか?
あー、そうかも。
どこかから祐希っぽい女の子を捜して来たんだ。今頃祐希は物陰に潜んでて、オロオロしてるあたしを見て笑ってるに違いない。
そうだそうだ。
だって有り得ないもん。
祐希が女の子だなんて―――
痛みも経血も和らいだ翌朝。
「おはよー、実果」
校門の前で待ってたのは女の子の祐希。
「…夢じゃなかった…」
「へ?」
「ううん、何でもない」
昨日帰ってから、アルバムやプリクラ、携帯のメモリーに至るまで片っ端から見漁った。
あたしの隣には当たり前のように女の子の祐希が写っている。
凝ったドッキリでもここまでできる筈がない…、て事は、これは夢!
寝て起きたら元通りだと思ってすぐに布団に潜り込んだ。
なのに――