春に生まれた彼女へ-1
「朔、なに惚けた顔してんだよ」
「あ?」
弥勒に呼ばれて、はっとした。
どうやら、またぼーっとしていたようだ。
「お前さー、せっかく花見にきてるっていうのに、その無関心さは何!? もっと花を楽しもうぜー」
「いや、お前の場合、楽しんでるのって酒じゃないのか?」
「いいの、いいの!酒を楽しみつつ、花も楽しむ! これ、花見の基本だろ!」
ビール片手に弥勒は桜をみている。
確かに、基本的な花見の姿勢は崩してはいないらしい。
相変わらずだな、と、鼻で笑いながら、ビールを喉に流し込んだ。
一年前。
初めて彼女と、−夕と会った時も桜が満開の時期で。
とても綺麗な顔立ちで、普通にすましているとまさしくクールビューティといった感じだった。
「この子、後輩の夕! 朔、これからアンタ先輩なんだから、ちゃんと世話するのよ!」
「へいへい」
「返事は一回でよろしい!しかも、へい、じゃなくてハイだろうがっ!」
ガスッ
姉さんと呼ばれ慕われている亜紀先輩は、僕に回し蹴りをくらわしやがった。
「…亜紀さん、回し蹴り、とっても上手なんですね」
真面目な顔して言うものだから、少し僕は笑ってしまって。
「…? なにかおかしな事いいました?」
「いや、もしかして天然なのかなと思って」
そう言う僕を、キョトンとした顔で彼女は見つめていた。
後に、あの時はとても緊張していたのだと彼女に聞いて。
…すましていれば、まさにクールビューティーな彼女。
だけど、時が経つにつれ、彼女は人なつっこい笑顔をみせてくれるようになって。
顔をくしゃっとして笑うのは、彼女の癖らしい。
「望月さん、ビールもうないんじゃないですか? これ、新しいのどうぞ」
「ああ、ありがと」
弥勒の言うとおりに花と酒を楽しもうとしていたら、またぼんやり桜を見つめて惚けていたらしい。
「何!? 朔!もっと飲まんか〜い!!」
「飲んでるからなくなったんだろ」
「あはは ほんと、天野さんと望月さんって仲が良いですね」
「ふふふん! 朔と俺は高校からの親友なのよ〜♪」
「確かに、高校からの知り合いだな そういえば、亜紀さんも同じ高校の先輩だったし」
「そーそー! …って、こら朔!なにげに親友って否定してないか!?」
「へいへい あっち行って桜でも見てこい」
ぶつくさ言いながらも弥勒は他の花見仲間の所に突入していった。