崩壊〜陥る〜-6
「……仁志にも、金輪際、会わないように言い含めてある。あなたも、その辺りを考えてくれないか?」
内容からすると、涼子に連絡しているようだ。
(オレが悪いのに、涼子さんに電話するなんて。今度あの人と会う時、なんて言えばいいんだ)
止めさせようと廊下に足を降ろした時、涼子の言葉への返答なのか再び声が漏れてきた。
「……あななとは約束したはずだ。アイツが18になるまで、親としての名乗りを上げないと」
耳を疑う言葉。見開いた目は焦点が合わぬよう宙を泳いでいる。
(…オレが…オレと、涼子さんが…親子…)
知ってしまった真実の大きさに、身体は震え、息をするのもままならない。
(じゃあ…今まで、オレの親父とお袋と…思ってたこの人達は…誰なんだ…)
ヨロヨロと後ずさりし、階段を上がると自室に引き帰した仁志は、崩れるようにベッドに倒れ込んだ。
(オレは今まで、他人に育てられ、実の母親を叔母と教え込まれていたのか…)
幼い頃から重ねてきた沢山の思い出が、すべて偽りの上で成り立っていたと知り、心が瓦解しそうになる。
(あの人は、何故、オレを育てずに他人に預けたんだ…それが今になって、オレと会うとあんなに嬉しそうに)
仁志の頭に、ひとつの疑問が湧いてくる。
これまでの他人行儀だった涼子。その後に受けた、辱めとも取れる行為。そして、慈愛に満ちた優しさ。
すべては彼女の気まぐれなのか、それとも綿密な計算に成り立ったモノなのか。仁志には分からない。
その後に、もうひとつの疑問が浮かんだ。
(オレは、母親に欲情していたのか?)
“近親相姦”
頭に浮かんだ言葉。仁志の胸に忌まわしさと同時に、淫靡なる気持ちが芽生えていた。
翌日。
「仁志。ごはんは?」
休日の朝。仁志は外出着に着替え、両親が揃うキッチンに現れた。
「いらない…」
答える仁志の目は赤くなっている。昨夜から、まんじりとも出来ずに眠れなかったからだ。
「朝は食べなきゃ。せめて、おかずだけでも…」
優子の心配気な言葉に、仁志は、つい、昨夜からのわだかまりを吐き出した。
「人の作ったモノは食べたくないんだ…」
仁志は“人”という言葉をことさら強調する。
「仁志ィ!」
真仁が立ち上がり、怒号にも似た叫びを仁志に浴びせた。蒼白に変わった顔には、いつもの余裕など欠片も無い。
両親も知ったのだ。仁志が真実を知ってしまったと。