崩壊〜陥る〜-4
日付けが変わる時刻。仁志は自宅近くでタクシーを降りた。
降りしきる雨の中、涼子に傘を開いて歩いて行く。
先日のような楽しい気持ちは無い。むしろ、衝動で起こしてしまった行動に自問自答する。
(いくら涼子さんが好きでも、あれじゃ強姦だ。優しさにつけ込んで、オレは何をやってるんだ)
過ちを認める。が、不思議と後悔はしていなかった。
それどころか、
(次に呼ばれた時、抑えられるか自信が無いな…)
“いずれ、彼女とセックスしてしまうだろう”
家路を歩きながら、仁志には確信めいた思いが浮かんでいた。
「ただいま」
合いカギで玄関を開け、中に入るとリビングの明かりが見えた。
(またかよ。毎回、毎回…)
涼子との関係に悩み、そのうえ、色々と詮索したがる両親。正直、存在に疎ましささえ感じていた。
仁志はリビングを避けるように2階へと向かって行くが、
「ああ、仁志。帰ってたのか」
仁志の背中に、父親、真仁の声が掛けられた。
「ちょっと、降りて来なさい」
母親、優子も心配気な声で呼んでいる。
「オレさあ、眠いんだけど…」
投げやりな言葉。無性にイライラする。何故、そう思うのか仁志自身、分からないが。
「そう言わずに降りて来なさい。すぐに済むから」
真仁の優しい語り口に、仁志は仕方なく階段を降りていった。
「何?さっさと話してよ」
「まあ、そう言わずに中に入れ」
3人はリビングに入る。テーブルを挟んで奥に真仁と優子、手前に仁志が腰掛けた。
「こんな夜更けまで何処に行ってたんだ?」
「別に…ちょっと…」
「今日も、涼子さんの自宅に行ったんだよな?」
涼子の名が出た途端、仁志はヒザを抱えて顔を伏せた。
「何をしに行ったんだ?」
真仁の口調は落ち着いていたが、その表情は有無を言わせぬ厳しさが映っていた。
「…その…この間の検査結果が聞きたくて」
「それで?どうだったの」
優子が会話に割って入る。
「それが、急に行ったもんだから…その内、雨に濡れて…乾くまで居ただけだから何も聞いてないんだ」
とっさに思い付いた嘘。
伏し目がちな視線は宙を舞い、明らかに落ち着かない。
「こんな時期に雨に打たれて、寒かったでしょう。今日は風邪薬を飲んで寝ときなさい」
優子は仁志の嘘を鵜呑みにすると、ただ、彼が受けた災難を嘆いた。
しかし、真仁の方は仁志の変化を見逃さなかった。