崩壊〜陥る〜-3
「じゃあ、気をつけてね。しばらくは、ここに来ないでちょうだい」
午後11時を過ぎた頃。
ドアの前立つ仁志と見送る涼子の姿。
「本当に…ごめんなさい…」
頭を垂れ、ただ、許しを乞う仁志。
騒動から1時間、2人は同じ部屋で過ごしながらも、ひと言も発することも無く服が乾くのを待っていた。
「少し頭を冷やして来なさい…私はあなたの…」
「分かってます…叔母さんですよね」
仁志の言葉が涼子の胸に突き刺さる。
「そう。私はあなたの叔母なの」
「…だったら、なんで、ボクに裸を見せたんです?あんなに…興奮させるように」
悲しげな顔。涼子は奥歯を噛み、冷徹な表情を仁志に向けた。
「そうね。強いて理由を上げれば、好奇心かしら。“童貞くん”がどんな反応を示すかね…」
あからさまな虚勢。だが、今の仁志にはそれで十分だった。
「分かりました……」
ポケットの財布から、封筒を取り出した。ここに訪れるまでキレイだったが、雨のおかげでクシャクシャによれている。
「何よ?これ…」
黙って差し出された封筒に困惑気味の涼子。仁志はポツリと呟いた。
「それ…この間もらったお釣りです」
「それは、あなたにあげたモノよ。持ってなさい」
「もらう、理由がありません…」
会話が止まった。俯き伏し目がちな仁志と、慈愛の瞳で見つめる涼子。
無言の中で互いの思考が交差する。
「分かったわ。次に来る時のために持っておきなさい」
俯いていた顔が上がり、伏し目がちの目に生気が甦る。
その目に映るのは、優しく微笑む涼子の顔だった。
「さあ、夜も遅いわ。これ持って帰りなさい」
涼子の手には傘が握られていた。
「返さなくて良いからね」
「あ、ありがとうございます!」
カラシ色にチェックのアクセントの入った傘。仁志は受け取ると、ドアの外、通路を歩いて行った。
その後ろ姿を見つめ、涼子は“ある覚悟”を決めた。