風-2
「なんで？」
「好きだね、それ」
「もおっ、話を逸らさないでよ」
「天羽さんがいつもやってる事だよ」
「……真嶋くんって、面倒くさい」
「その言葉、そっくりそのまま返そうか？」
「要らないわ」
「だろうね。言うと思ったよ」
「………」
そのまま少し固まり、彼女は不意にため息を吐いた。まるで、諦めたかの様に。
彼女にしては珍しく、自分が折れることにでもしたのだろうか。
だとしたら、明日は嵐だ。台風だ。
「ほらね、こういう所が似てると思うのよ。会話が成立しない、でしょ？」
「そうかな？」
「絶対似てるって。い〜い？」
「はいはい。今日のところは、そういう事にしておこうか？」
「それで良し」
彼女は無理やり意見を押しつけて満足げに微笑んだ後、『またね』と手を振りながら風の中を駆けて行った。
その後ろ姿は、やっぱり美しい絵画の様で……俺はしばらくそのまま、彼女の姿を見つめていた。
俺たちは似てなんかいない。むしろ、相容れない存在だと思う。
彼女は風の中、俺はこの閉鎖された空間の中。
どんなに憧れ、描いてみても……俺の世界にも、このキャンバスの中にも、本物の風は絶対に吹かない。
そう、絶対に。
パタパタと廊下を走る足音が、徐々にこちらへと近付いて来る。
美術室の扉が開けられた次の瞬間、足音の主がひょっこり顔を覗かせた。
「真嶋先輩、お待たせしました。今日も荒川部長、厳しくて……もうクタクタ、お腹はペコペコです」
「お疲れさま。じゃあ、何か食べて帰ろうか？」
「はいっ！」
俺の言葉に、その女の子は頬を染め、嬉しそうに微笑んだ。
まるで、風の中に佇む彼女の様に……
− ＦＩＮ −
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