やっぱすっきゃねん!VE-6
「オレはな、このまま行けば全国でもやれると思ってた。でもな、今日、沖浜と対戦して考えが甘いと分かったよ。
とにかく、あとひと月だ。今までの努力を無駄にしないために、さらに努力する」
直也は、思いつめた表情から一転、笑顔を作り、
「おまえのピッチングも必ず必要になる。明日はオレが教えるから頑張れよ」
「あんたが教えるの?」
「稲森の代わりだ。オレは練習試合に帯動しなくていいってさ。おまえにスライダーを教えてくれって」
稲森、直也が自分にピッチングを教えてくれる。それはとても嬉しいのだが、彼らは練習試合もこなさなきゃならない。
佳代にとっては、その事が辛く思える。
“私はあんた達の重荷になってないの?”
思わず口を付いて出そうになるのを、胸の奥にしまい込む。
「私、頑張るよ。早く5人目になれるように」
佳代は笑顔を向けた。直也は、それに応えるようにバッグからボールを取り出した。
「横のスライダーはな、こうやって握るんだ」
人差し指と中指を縫い目に掛けた握り方を見せる。
「オレは中指を少し立てて爪を掛けるんだ。これで腕を振ると、強い横回転が生まれて、滑るように曲がるんだ」
「へえ〜ッ、ちょっと貸して」
ボールを受け取り握ってみせる。
「こう?」
「違う違う。もう少し指の間隔を開けるんだ」
「これくらい?」
「それじゃ開け過ぎだって」
見かねた直也は、佳代の手をとって握り方を修正する。
「だいたいそんなモンだ」
「これで投げるの?」
佳代は投げる格好で、手首をひねって見せた。
「違うって。ひねって変化させるんじゃなくて、指先で斬るように投げると中指の爪が縫い目に掛かって回転が増すんだ」
「分かんないよ、そんなにいっぺんに」
「だから明日から教えてやるって。1ヶ月もあれば覚えられるさ」
校門を過ぎ、分かれ道が差し掛かる。
「私、しっかりやるからさ。よろしく」
佳代は直也にペコリと頭を下げた。
「ああ、残りの1ヶ月で、おまえを使えるように仕上げてやるよ」
威勢の良い言葉を残し、直也は帰っていった。日が傾く中、お互いが家路へと急いだ。
稲森の“本物を見つける目”が、永井や一哉、直也、そして佳代自身の心に火を点けたのだった。