やっぱすっきゃねん!VE-5
夕方。
ピッチング練習を終えた佳代と稲森は、兼任であるライトやショートのノックをやっていた。
その時、学校へ入ってくる複数のクルマの音が聞こえた。
「帰ってきた!」
2人は練習そっちのけで駐車場に駆け寄った。ちょうど一哉のクルマから葛城に直也、淳が降りて来るのが見える。
「どうだった?試合は」
思いのほか高いテンションで練習試合の結果を聞きたがる。
しかし、直也や淳は一様に暗い顔をしていることから、あまり良い結果ではなかったようだ。
「…連敗だ。1試合目は完敗だし、2試合目も引き分けとはいえ、エラー絡みだ。こんなんじゃ全国なんて行けない」
吐き棄てるような台詞を残し、直也は前を通り過ぎていく。
佳代は、遅れて出てきた淳をつかまえて事の顛末を訊いた。
「確かに…ありゃあ負け試合だな」
淳の話によれば、第1試合にひき続き、第2試合も5回まで2‐0で負けていた。
そして6回表、青葉中の攻撃。ヒットと四球、送りバントで1アウト3塁2塁。ヒットで同点のケース。
バッターは3番直也に4番達也。ベンチは逆転も期待して否が応にも盛り上がる。
直也は3球目を打った。打球はボテボテのショートゴロ。1点は仕方ないと深めに守っていたショートは、かろうじて1塁だけをアウトにした。
次は達也だ。内野はさらに深く守った。
達也は外角のチェンジアップを叩いた。打球は高く上がり、サードが手を上げている。
サードランナーは諦めた顔でホームへ走る。
ところが、サードはグラブに当ててフライを落としてしまった。
こうして、同点に追いつきはしたが、ヒット数は沖浜が11本、青葉が2本と内容では完全に負けていた。
佳代と稲森も含めて全員が永井達の前に整列した。今日の練習試合におけるチェック項目と、明日の予定を口頭で伝えるために。
ズラリと並んだ部員達を前に、永井はまず選手達を労った。
「皆んな、今日はご苦労だったな。試合は1敗1分だが、オレは非常に有意義な試合だと思った」
そこからは、彼らの持つ可能性の高さを讃えだした。
「特に2試合目で負けなかった事だ。野球は、ヒット数で勝敗を決めるんじゃない。おまえ達のディフェンスの高さを再確認出来た事に、私は手応えを感じた。
おまえ達は十分、全国に行ける。だから、さらなるレベルアップを図って来月、さ来月の大会に挑むんだ」
葛城、一哉とも、今日の試合に対する捉え方は同様の内容だった。
最後に、永井が明日の予定を伝えて解散となった。
佳代は、消沈気味の直也を心配して近寄った。俯いていたが、その顔は悔しさでいっぱいだ。
(これなら大丈夫だ)
直也は、佳代の存在に気づくと感情を吐き出した。