やっぱすっきゃねん!VE-4
翌日。
「さて、やるか!」
誰もいない青葉中のグランド。生ぬるい空気に包まれた中、佳代は稲森と2人ランニングに勤む。
彼ら以外の部員は、皆、練習試合に出払ってしまい、佳代はピッチング練習に、稲森は指導役として残された。
すべては、戦力アップのため。ひとつの可能性をチームに生かすための別行動。
準備運動、ランニング、キャッチボール、素振り。軽食をはさんでティーバッティング、ノック。
そして、再び軽食をすると、
「さてと、やるか」
「う、うん」
いよいよピッチング練習。
15分ほど、グランドでキャッチボールを行ってから、2人はブルペンへ。
稲森は防具を付け、立ったままボールを受ける。
佳代は淡々と投げた。アドバイスを頭に浮かべて。
「ヨシ、そろそろ行くか」
稲森は帽子を逆さに被ると、しゃがみ込んだ。
「ところでさ…今日の試合、どうなのかね?」
自分の事より練習試合の行方が気になる佳代。稲森はそんな態度を軽くたしなめる。
「おまえさあ、自分の事に集中しろよ」
「そりゃそうだけど…気になるじゃない。相手は県大会優勝校だし」
今日の相手は、昨年、全国大会ベスト8になった沖浜中学だった。
全国レベルの実力を肌で感じたいと佳代は思っていた。が、永井から“おまえはここに残って練習をやってろ”と言われ、ガッカリした。
「第1試合は1‐3で負けたってさ」
稲森は、つい口を滑らせた。あまりに情けない顔をするからだ。
「なんであんたが知ってるの?」
「さっき、直也から連絡があったんだ。1点リードした6回に中里が打たれたそうだ」
「そう…」
佳代は、まるで自分の事のように顔を俯かせる。それを見た稲森はボールを投げ返すと、いつものアドバイスのように言って聞かせた。
「沖浜は去年の全国大会で見たけど、左バッターが多いんだ。特に主軸はすべて左だ。
オレ達が全国に行くには沖浜は強敵だ。それを抑えるには左ピッチャーが必要になる」
「分かった。そのためにも練習やらなきゃね」
「そういうことだ」
稲森はしゃがんでミットを構えた。佳代は雑念を胸の奥にしまい込むと、一心不乱に投げ込んだ。