やっぱすっきゃねん!VE-3
「なんですか?」
「真っ直ぐと並行して佳代にスライダーも教えてくれ」
「スライダーを?」
「そう。この真っ直ぐに横のスライダーがあれば、左バッターは絶対に打てない。
ヒザ元に投げれば右でも難しいだろう。先発以外なら使えるぞ」
確信に満ちた言葉に、稲森の顔はみるみる変わった。
「分かりました!明日、直也に頼みます」
稲森もスライダーを持ち球としていた。が、自分よりも直也の方が優れている。ならば、良い方に学ぶのは当然だ。
一哉は稲森にボールを渡すと佳代の傍に歩み寄った。
「佳代。まさか、おまえにピッチャーの素質があるとはオレも気づかなかったよ」
「あの〜、え〜と」
今だ躊躇いのある佳代。褒められても複雑な気持ちだった。
「急ぐ必要はないからな。おまえが必要となるのは、県大会からだろうから」
そう言うとブルペンを後にした。
(県大会って…?)
佳代には、言われた意味がよく分からなかった。
「どうですか?ご自身で受けてみて」
永井は感触を訊ねる。彼としては、地区大会で淳や中里の負担を減らせればくらいにしか思っていなかった。
しかし、一哉の言葉に思いは大きく変化した。
「県大会で、必ず必要になりますよ。淳と2人で抑えをやらせれば先発の負担が減らせます」
「…それほどに…ですか?」
「ええ。ただ、日数がありません。すぐに練習試合と地区大会で経験を積ませるしかないですね」
「じゃあ、早めにバッティング・ピッチャーで感覚を掴ませないと」
永井の考えに、一哉は同調する。
「とにかく、さ来週を目処にコントロールをつけさせて。それからです」
「だったら、明日から100球くらい投げさせますかね?」
「いえ。今まで通りの練習でいいですよ。抑えなら、せいぜい20球でしょう。
短いイニングで集中する練習の方が合ってると思います」
“佳代のピッチャーとして使う”一見、とんでもないと思わせる計画が決まった。